太陽が沈んで、暗がりが辺りを包む頃。
特にこれといった仕事がなければ、あいつは必ずここいる。


1.硝煙

ボンゴレのアジトは広い。
もちろん建物自体もそうだが、その下に広がる地下はもっと巨大である。
その全てを知っているものは少ないし、もとより一部の幹部にしか開かれていない場所も多い

獄寺隼人は、その少ない一部の幹部の一人である。
巨大な地下迷宮を迷うことなく進んでいけば、さらに地下へと繋がる階段。それを一段ずつ降
りていくたびに、硝煙の臭いがきつくなる。

(やっぱり、今日もここいたか)

聞こえてくる銃声の向こうに、景色が開けた。
世界中のものを集めてきたのかというぐらいの、膨大な数の銃。その奥は、幹部にしか使用を許されていない射撃場なのだ。

(やってるな)

ひろい部屋の真ん中で銃を構える黒髪の男を見つけて、獄寺は小さく笑った。
まだ、自分には気付いていない。よほど集中しているんだろう。
近くの壁に寄りかかりながら、しばらく山本の様子を見守る事にした。

しん。と、空気が静まり返る。黒い相貌が迷うことなく、一点を見つめる。構えた銃と同じところを。
山本が口元を引き締めた瞬間、銃声が鳴り響いた。

「……へたくそ」

弾丸の行方を見守った瞬間、思わず獄寺は右肩を落とした。

「どー狙ったら、そんな突拍子もないところに飛んでいくんだよ」
「……獄寺?」

ようやく気配に気付いたのか、消音用のイヤホンを外しながら山本が振り返る。

「来てるんだったら声ぐらいかけろよ」
「お前のヘタクソっぷりに、かける言葉がなかった」
「ひでー」

困ったように笑いながら肩をすくめる山本に近づいて、傷一つついていない的を見つめた。

「どうやったらこうも見事にはずせるんだよ」
「いや、コレでも大分成長したんだって」
「成長じゃねえ、マシになったって言え」

横目に山本を睨みつけながら、銃を奪い取る。弾が入っているかどうかを確認してから、片手で構え、的を見据えた。

「銃ってのは、こうやって撃つんだよ」

言うなりトリガーを引けば、心地よい銃声と共に振動が手のひらに伝わる。
その先を見れば、弾は見事に的の真ん中を貫いていた。

「すげー、さすが獄寺」
「まあな」

山本の素直な賞賛の言葉に、獄寺は自慢げに笑みをこぼした。

 


運動神経がよく、何事も要領よくこなす山本だが、どうも射撃だけが上手くいかないらしい。
時間を見つけては山本がここに来て練習に来ているのは知っているし、獄寺もたまにこうやって見てやっているのだが、一向に上手くなる気配がないのだ。
ただ何でもそつなくこなす男に出来ないことがあるのは、獄寺にとって小気味よかったし、山
本も上手くいかないコト自体を楽しんでいるようだった。

「なんかさ、コツとかねーの?」
「だからいってるだろ、構えるときに、こう……」

山本に銃を持たせ、後ろから演技指導をする。
獄寺が成長を止めたあともすくすくと育った健康優良児との身長差がにくいけれど、この時ば
かりはあまりそれも気にならない。
なにしろ自分が射撃の先生であり、マフィアの先輩なのだから。

「え、こう?」
「だから違うっていってんだろうが! こうだよ、こう!」

山本の手のひらに自分のソレをそえて説明するのだが、上手くいかない。
「わかるか?」と体を密着させ、下から山本の顔を覗き込ば、当然とばかりにキスをされた。

「あ、ごめん。つい……」
「ってめー! 人が真剣に!」
「いや、だって仕方ねーって!」

何が仕方ねーんだよ! と突き飛ばそうとした瞬間、両腕が伸びてきて腰と顔を引き寄せられる。

「いい加減にしろよ!」
「わかってる、ちょっとだけ」
「いや、全然わかってねーだろ!」

さらに銃を持つほうの腕で腰を引き寄せられ、いつの間にか立ち上がっている自身を押し付けられた。

「だって獄寺があんまくっつくから、もうこんな感じ」
「ふざけんな……っ」

けれどそれは惚れた弱みというもので。
自分に反応したその熱がやはり愛しくて、獄寺自身も小さく応える。

「あー部屋までまてねぇ、ここでしよ?」
「あほか! 誰かきたらどうするんだよ!」
「大丈夫、きても雰囲気さとって遠慮してくれるって」
「全然大丈夫じゃねぇだろ、それ!!」

文句をいう唇は、すぐに同じ熱を持つものでふさがれてしまった。
強引に優しく壁に押し付けられ、足を割り開いて、シャツのボタンに手を掛けてくる。

「いつまでたっても、上手くならねーはずだよ、くそっ」

止まる気配のない恋人に破棄捨てるように呟けば、「違いねーな」と苦笑が返ってきた。

「オレが……」
「ん?」
「オレが戦場で敵に囲まれたとき、そんな腕前じゃ命預けられないだろうが」

まあそんなヘマはしないけど。と言葉を続けると、山本は少しだけ目を見開いて、それから小さく笑った。

「大丈夫、はずさねーよ」
「は?」
「そん時は、ぜったい外さない」

体を開いていく指は止まらない。熱に流されそうになりながらも、獄寺はまけじと山本を睨みつける。

「その腕前で、なんでそんな自信もてるんだよ……!」
「自信も根拠もないけど……」

それでも絶対外さない。
言い切る山本に思わず言葉を呑んでしまったが最後、あとは奪うような乱暴な口付けに、全て
を丸め込まれてしまった。

(ちくしょう、後で覚えてろよ)

このヘタクソ、と思うものの。


きっといざという時には本当に狙いを外さないのだろうこの男が、小憎たらしく。
ほんの少し、愛しかった。

 

 

しまった、硝煙関係ない!!
ずっとやってみたかったお題なのですが……あれ、どうしてこんなことに……。