ずっと仕事ばかりで忙しくて、街に出たのは本当に久しぶりだった。
だから、それに気付くのも遅れてしまって。

夜を彩るイルミネーション。流れてくる軽やかな音楽。

「あ」

忘れていた。
今日はクリスマスイブである。


16 花


歩きながら考える。
そういえば、いつからこの日を一緒にすごしていないだろう。
付き合い始めたころは、確かに一緒だった。
そもそも獄寺と過ごす全てが新鮮で楽しくて嬉しくて、クリスマスという名目で一緒に夜を明
かせるだけで十分だったのだと思う。
プレゼントに何を送れば喜ぶのか、悩みすぎて野球も手につかなかった。

笑顔が見たかった。笑う声が聞きたかった。喜んで欲しかった。喜ばせたかった。

獄寺のことを考えて、悩むことすら楽しくて。
無い頭を振り絞って買ったプレゼントは、いま考えればささいなものだったけれど、あのとき
の獄寺の照れたような笑顔はきっと一生忘れない。
お互いの赤くなった顔は全て寒さのせいにした。
とにかく獄寺が好きで、彼を中心に世界が回っていたのだ。

それは今も変わっていないはずなのだけど。

イタリアに渡って数年は、はっきりいってクリスマスどころじゃなかった。忙しかったのだ。あと、精一杯だった。
状況が落ち着いてからは、クリスマスというのもお互い『今更』で。そもそも一緒に住んでい
るのだから、わざわざ混んでいるときに混んでいるところに行かなくても構わないだろう。
言葉に出したことは無いけど、多分そういうことだ。

(それはそれで、幸せなことなんだけど)

一緒にいることが、当たり前。
イベントなんか無くても、気持ちが通じ合える。

(だけど)

通り過ぎていく人たちは、みんな幸せそうに笑っている。振り返れば不器用に手を繋いでいる恋人がいて、イルミネーションの見上げながらなにやら一生懸命に話していた。

自分たちも、ああだった。羨ましいわけではないけれど。

(懐かしい)

今頃、獄寺は何をしているだろうか。

(そろそろ、仕事上がる頃かな……)

近くに時計を探すけれど見つからなくて、ポケットから携帯電話を取り出して時間をみる。そしてそのままメール打った。
すると思ったよりも早く携帯の着信音がなった。確認するまでも無い、獄寺である。

「獄寺?」
『お前なんだよ、あのメール』
「ん? そのまんまだって」
『いきなり会いたい、とか。別に家に帰るんだから嫌でもあうだろうが』
「あのさ、近くの表通りにでっかいクリスマスツリー毎年あるだろ?」
『……ああ?』
「そこで一時間後、待ってて」

獄寺は意味がわからないとばかりにたっぷり三秒ためて『はあ?』と返してきたけど、負けじと「約束な」と一言伝えて電話をきった。
きっと怒っているだろう。だけど、きっと来るだろう。

(花を買っていこう)

あと、シャンパンもあればいい。ワインのほうがいいだろうか。
花はバラがいい。出来るだけ、多く。
そして獄寺をびっくりさせるのだ。彼の照れた怒り顔が目に浮かぶ。

今日は、寒い。
バラを渡す自分の顔も、受け取る獄寺の顔も。
赤くなったなら全て、寒さのせいに出来るだろう。

 

 ということで、一足早いクリスマスです!!…ていうか、
 またしても花関係ないし!!
 イメージソングはゆズの「みそ``れ雪」