このお話しは、標的140「アジト」の妄想SSです。
ネタバレを含みます。ご注意ください。

 


帰る場所

 

 十年前(オレにとっては現在だけど)の山本の背中は、どれぐらいの大きさだったんだろう。
 真剣に見たことも、考えたこともなかった。
 突然ふって湧いた十年後の未来と、危機的状況。混乱する頭に輪をかけるように現れた、十年後の山本武。
 考えることは、たくさんあった。ファミリーのこと、十代目のこと、リボーンさんのこと。
 なのに、その瞬間頭に浮かんだのはこの男の十年間のことだった。

 何故、お前がここにいる?

 取り合えずここを離れようと歩き出した山本を追って、歩く。その背中は、多分オレがしっているものより、ずいぶんと大きいように思えた。

「獄寺?」

 遅れて歩くオレに気付いたのだろう、山本が振り返って名前を呼んでくる。つられて十代目と女も振り返るが、山本はそれに「真っ直ぐ進んでおいてくれ」と軽く指示をして、その場に止まってオレが追いつくのを待った。

「なんだよ、さっさと行けよ」
「足……」
「ああ?」
「足、痛めたのか?」

 ああ、こういう所は変わっていないのか。
 気付かれないように普通に歩いていたのに、やはりこの男には通じないらしい。
 
昔からそうだ。自分のウソが、山本に貫き通せたことがない。
 
「別に……」

 真っ直ぐに山本から見つめられて、思わず目をそらした。
 どうしても、その黒の眼の奥を直視できない。
 なあ、その目はオレの知らない十年間を見てきたのか?
 その目は確かにオレを見据えているはずなのに、何故遠くを見ているような気がした。

「背中、貸そうか?」
「……はあ?」
「ほら、丁度よく二人とも前をあるいてるしさ」

 な? と言って笑って、反論の余地を与えない早業でオレの手を引く。
 
「い、いらねぇよバカ!」
「まあまあ」

 まことに情けない話ながら、確かに足は痛かった。
 たぶん騒動の間に挫いてしまったのだろうと思う。足首が熱を持って、確実に限界を訴えていた。

「じゃあ、肩貸せ」
「遠慮すんなって」

 別に遠慮もしていないのだけど、山本が背中を向けて「ほら」と声をかけてくる。
 しばらく迷った末に声に従ったのは、たぶん十年後のこの男の、その背中に興味があったからだ。

「十代目が振り返ったら、すぐ降りる」
「はいはい」

 子供扱いしやがって。
 山本の肩に両手をのせると、小さく掛け声をかけてオレの体を持ち上げる。ずり落ちそうになる体を支えるように足をもって、何度か体をゆすった。

「くそ、なさけねぇっ」
「もう、すぐそこまでだって」
「十代目が振り向かれるような気がする……」
「まあ、別に見られてもいいんじゃないか?」

 お前さっきといってることが違うだろうと、喉本まで出かかった怒鳴り声を飲み込む。
 大きな声をだして、わざわざ十代目を振り向かせる必要もない。
 
「お前、山本だよな」
「他の誰かに見える?」

 だって、こんな体をオレはしらない。
 体格は確かによかったけど、これほど立派な骨格なんてもっていなかった。
 いつも不器用にオレを抱いた腕は、こんな大人の腕じゃなかった。
 そして抱き返したときに触れた背中は、こんなにも大きくはなかった。
 こんな山本を、オレは知らない。
 お前がこの背中に何を背負ってきたのか、オレは知らないんだ。
 
「ここがさ」

 黙り込んだオレに、ふと山本が囁く。

「十年後のお前の、帰るところだよ」

 ずっと、おぼえてろよ。と、消え入りそうな小さな声で、呟いた。
 
 ……なら、今のオレの帰る場所は、どこにある?

 山本の大きな背中の体温に、不覚にも安心感を覚えて、オレは目をつぶった。そして暗闇のなか、その場所をさがす。

 イタリア、家族。日本、並森、十代目、そして……。

 脳裏に浮かべた景色の中を旅して、目をあけて。
 無性に、ただ無性に、オレがしっている山本に会いたくて、胸が痛んだ。
 
 
 いいようのない感情が胸に渦巻いて、それを誤魔化すように山本の背中に顔をうずめた。
 そこからは、十年前とおなじ、山本の匂いがした。 

 

end


 

 

ということで、やってしまいました、24本×14寺!
お題ははちゃさんから、おんぶ山獄でした。
獄寺がおんぶって、かなりシチュが難しい…(笑)
原作と色々つじつまが合わないところもあるかと思いますが、
妄想ということで多めにみてください……。