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セックスとキスと切なさの間
例えば、映画のように出会って愛し合った二人でさえ、時間がたててば関係は少ずつ変わっていくに違いない。 ましてや男同士。十年もたてば、愛が馴れ合いにかわっても責められない。 少なくても、獄寺はそう思っていた。
「獄寺、ビールは?」 「あー、冷やしてねー」 「えー!」
ベッド脇の机においてあった照明のリモコンをてにとり、山本が明かりをともす。淡く輪郭を映すオレンジの光から、眩い白光になると同時に山本はベッドを抜け出し寝室を出た。 獄寺はそのむき出しの背中をぼうっと見送って、自身も上半身を起こす。シーツの上に丸められたコンドームが目に付いて、口を結んでゴミ箱に捨てた。
(ていうか……、終わってるよな。コレ)
もはや、恋人とはいえない。 二週間ぶりのセックスが終わった直後の会話がコレなことも。そもそも二週間ぶりに出会ってやることがコレしかないことも。自分自身の胸の空虚さも、終わっているとしかいいようがない。 ため息をついて立ち上がり、ティッシュを一枚とって下をぬぐうと、ほんのりと血が滲んだ。久しぶりの行為だというのに、殆ど慣らさずに致した為である。 痛みはあったが、怒る気にはなれなかった。 所詮は、それだけのことだということだ。
「獄寺ー」 「なんだよ」 「ビール買ってくる」
ああもう、勝手にしろ。
山本に彼女が出来たらしい、という噂を聞いたのが一週間ほど前。あの男が出張でイタリアを留守にしている最中のことである。 獄寺と山本が恋人関係にあるということは、ボンゴレでも一部の人間しかしらない。噂は容赦なく、獄寺の耳に入り込んできた。
(十年だ)
恋人の心変わりを、とてもではないけれど責める気にはなれない。 (もともと、あいつは女好きだし) 女を抱きたいと思うのは、普通だろう。むしろ、今でも自分に性欲が持てるほうが不思議だ。 そう思うのに、別れることも突き放すことも出来ないのは弱さだ。 今でもまだ、山本を愛している自分自身のエゴでしかない。
「……っら!」
ふと、正面から声が聞こえて我に返った。 相当深く考え込んでしまっていたらしく、気がつけば山本が両手にビールをもって突っ立っていた。
「何ぼーっとしてんだよ」 「あ、いや」 「ほら、獄寺の分」
山本がビールを投げようとしたのを、慌てて駆け寄って阻止する。この男に物を投げさせるは危険だ。
「はは、別に昔みたいに無茶しねーって」 「そういってこないだはお前、アジトの防弾ガラスにヒビいれたろ!」 「そうだっけ?」 「そーだ!」
眉間にしわを寄せて怒鳴ると、山本が笑う。そしてそのまま腕を伸ばして、獄寺を引き寄せた。
「山本?」 「獄寺さ、オレに隠してることねえ?」
穏やかな声である。けれど獄寺は知っている、コレは腹に一物抱えているときの声音だ。
「はあ?」 「お前さ、最近ちょっと変だったよな」
変だったのはお前だろ! と思うのに、怒鳴ってやろうと顔を上げて山本を目があった瞬間に喉が詰まった。 山本の顔が、まったく笑っていなかったからである。 「オレさ、知ってるとおもうけど、全然心が広くねーのな」 「何のはな……」 「まあ、今日突っ込んだら全然慣れてなかったし、浮気してねーのはわかったけどさ。体の」
ぐちゅ。という音がして、山本の指が獄寺の中に入り込んだ。思わず声が漏れるが、それに構わず言葉を続ける。
「あのさ、あんまりオレを心配させると、お前の体をめちゃくちゃにして、誰の目にもつけないようにしちゃうよ?」
そこで初めて、山本が笑った。もちろん、獄寺は笑えなかった。
「う、浮気してんのは……、お前だろ!」 「はあ?」 「女と付き合ってるって!」 「そんなわけないだろ」
容赦なく、もう一本獄寺の中に指が入った。それが遠慮なく動き回るものだから、たっていられなくて思わず目の前の体に抱きつく。
「ていうかさ、獄寺はオレが浮気してるかもしれないと思いながら、平気で抱かれたわけだ。ひどい抱かれて方しても、黙って耐えてたわけだ」 「や、まも……」 「オレが女と付き合ってても、平気?」 「ちが……っ」 「どうせ、オレが別れようといったら受け入れるつもりだったんだろ?」
山本の指が引き抜かれ、崩れ落ちそうになるの耐えようとするのに、容赦なく足払いをかけられ冷たい床に押し倒された。 そしてその上に覆いかぶさって、獄寺の顎を持ち上げた。 ビールが二つ、音を立てて転がる。
「そういうとこ、本気でムカツク」
言葉と一緒に、唇が落ちてきた。 それは奪うような乱暴な口付けで、獄寺は言葉を全て飲み込むしかなくて。
それなのに。
ああ久しぶりのキスだな、なんて。 呑気に嬉しいと感じている自分を、少しだけおかしく思った。
end |