俺が「イタリアにかえる」というと、山本は「いつ帰ってくるんだ?」と聞いてきた。
「わからねぇ。帰ってこれないかも」
 と俺が言うと、山本は俺を後ろから抱きしめてテレビを見ているそのままの体勢で「ふうん」といった。
 
 ……なんだ、その反応は!

     帰還命令

 その次の日からも、山本は別に普通だった。
 朝普通に挨拶して、昼に三人で飯食って、五限目をさぼってタバコをふかす俺の横で、呑気に昼寝していたりして。
 いやいや、お前は頭わりぃんだから勉強しろよなんて思うけど、山本と一緒にいれる時間のことを考えると、どうも追い返す
気がおきなかった。

 そもそも。
 イタリアへの帰還命令がきて、考えなくちゃいけないことは山のようにある。
 目下一番重要なのは十代目だ。リボーンさんとの話はついているし、十代目にも報告はしたが、やはり十代目のお傍にい
ないということは右腕失格なわけで。
 問題は山積なわけで。
 山本なんかのコトを考えている余裕は、ゾウリムシ程にもあってはならないわけで。
 
 それでも俺がいなくなって、こいつはどういう生活を送るんだろうとか。
 やっぱり可愛い彼女でも見つけてよろしくするんだろうかとか。
 もう少し素直になっとけば良かったとか。
 俺の頭の中は、そんなくだらないことでいっぱいだ。
 それなのに、コイツは平然としている。
 もしかして好きだと思っていたのは自分だけだったのかと考えると、少しだけ。本当に少しだけ、泣きたい気持ちになった。
 
 一日が終わる。
 チャイムの音が校舎に響いて、傾いた太陽が惜しみなく教室を照らす。
 十代目は急ぎのようがあったらしく、走って家まで帰られてしまった。
 仕方なく一人で帰るかと思ったとき、山本の後姿が目に映った。鞄を肩にかけて、教室のドアにもたれかかるようにしながら
アホみたいな面をしている。
 今日は部活だって言ってなかったか?
 不思議に思いながら山本の横に並ぶと、いつもの笑顔で「帰ろうぜ」といってきた。
「部活は?」
 とぶっきらぼうに聞けば、
「あー、休んだ」
 と返してくる。
 何か「なんで」とか「どうして」とか聞くのも面倒くさくて、眉間に皺を刻んだまま俺は歩き出す。
 山本は当然のように、その後ろをついてきた。
「今日さぁ」
「あぁ?」
「美術の寺田、ヅラずれてたよな」
「しらねぇよ、興味ねぇ」
「えー」
「そんなんばっか考えてるから、補習になるんだよ」
「獄寺だってヘタクソじゃん」
「うるせぇ」
「あ、あとさぁ。今日獄寺の部屋いきたい」
「……あー。別にいいけど、引き払う準備してるから、なんもねぇぞ」  
 そう言った所で、山本の足が止まった。俺はそれから二歩ぐらい進んだところで、振り返る。
 そして、ギョッとした。
「お、お前、何泣いてんだよ!」
 振り返った先に見た山本は、ボロボロと声も出さずに涙を流していて、一文字に結んだ唇が白くなって痛そうだった。
 
思わずキスをしたい衝動に駆られたが、人通りがないとはいえ天下の往来なので我慢する。
「俺に、どうしろっていうんだよ」
 口を開いた山本の口からでてきたのは、そんな一言だった。
「お前は、帰るっていうし。引き止めたいけど、俺は子供だし」
 握り締めた拳が震えている。
 俺の方こそどうしたらいいかわからなくて、とりあえず山本の言葉をきくしかない。
「どうせ帰るなっていってもさ、お前は帰るんだろ? とめる権利も、力も無いし。でも俺は離れたくないのに、獄寺はすげぇあっさ
りしてるし」
 もっと大人だったらよかったと、震える声で山本は続けた。
「そしたら、お前が嫌だっていったって、奪って逃げたのに」
 それから山本はとても緩慢な動きで俺を抱きしめて、囁くような消えてしまいそうな声で「好きだ」と呟いた。
 俺は不覚にもその言葉に胸を直撃されてしまって、赤くなった顔を隠すように山本の胸に顔を埋める。
「一緒にいてぇよ、獄寺」
 俺もだよ、とは声に出さないでおいた。言わなくても、伝わるだろうと思った。
「一生、あえねぇわけじゃねぇし」
 俺が言うと、山本は小さく頷く。
「十代目がいるし、俺もまた……日本来ると、たぶん、思うし」
「……うん」
「だから、その、俺がいいたいのは、つまり……」
 初めて、だったんだ。
 他人に傍にいて欲しいと思ったのも、好きだと思ったのも。
 喧嘩して苦しくなって、不器用なりに傷ついて、もう山本なんかいなくなればいいと思っても、やっぱり好きで離れられなくて。
 俺は本当に素直じゃないからいつも思ってるコトと違うこと言ってしまって、それでも山本は笑って「しょうがねぇな」といってくれた。
「つまり……俺は、お前のことが……」
 好きだから、と。
 声に出さず、唇だけで言葉にした。不器用な唇を、何も言わずに山本が覆う。
 それから小さく、けれどしっかりと山本は言葉を続けた。
「手紙、書く」
「おう」
「電話もする」
「おう」
「それから」
「おう」
「……いつか、絶対攫いにいく」
 待ってるよ、なんて。
 女々しいことは俺は言わない。何も言わずに俺は笑う。

 全くもって、俺というのはしょうがない奴で。
 こんなアホのことなんて、考えてる場合じゃないのに。
 それでも山本の一言一言に確実に脳をやられて、溶けそうになっている自分を自覚して。

 最後にもう一度だけ、縋りつくような必死さで「帰りたくない」と神に祈りをささげた。

dgs       黒い山本と泣いている獄が書きたかったのに、乙女な獄と泣いている山本になってしまったりして。
         フリー配布などといってみたけど、誰もいらないからと自分で突っ込んでみるテスト。