ラボSS 


 

 

 

 逢魔が時、というらしい。
 空が夕焼けに染まるとき。大地に長く影が伸びるとき。
 人の心に、そこかしこに、魔が通っていくらしい。

「雨、やまねぇなぁ」
「すぐやむって、こんなん通り雨だろ」
「日本の気候はよくわからねぇ」
「秋先には、よくあることさ」 
 へぇ、と獄寺は小さく頷いて胸元のポケットを探る。煙草を探しているらしい。
「獄寺、煙草さっきズボンに入れてなかった?」
「あー、そうだ。サンキュ」
 獄寺が、小さく笑う。
 取り出された煙草に灯がともり、紫煙がまっすぐ空へのびた。


 

 学校からの帰り道、雨に降られた。傘もなくて「煙草がすえねぇ」と獄寺が眉をしかめたので、
近くにあったお寺の屋根に逃げ込んだ。
 もっともお寺といっても人影はなく、とうに廃寺なったような場所だったけれど。
「つめてぇ」
「あっためてやろうか?」
「いらねぇ」
 そういう獄寺の顔がまんざらじゃないような気がしたのは、たぶん気のせいで。
「おい山本。ちょっと、雨やんできたんじゃねぇか?」
「さっきよりはな」
 どんよりと曇っていた空が、少しずつ赤みを取り戻していく。
 山本がそっと隣を見ると、獄寺もそれに気付いて「だろ?」と小さく笑った。
(獄寺、よく笑うようになった)
 そりゃツナに見せるような満面の笑みではないけれど。
 眉間のしわがとけて、目が少しだけ細くなって。口元だけで笑う獄寺のその表情が、たまらなく好
きだ。
(ずっと、そうやってりゃいいのに)
 そう思う反面。
 怒っている顔も、泣いている顔もみたいと思う自分も確かにいて。
 獄寺の全てが、ずっと自分に向いていればいいのにと思う。

 獄寺が、濡れた髪をかきあげる。
 そこからしずくがおちて、頬を伝い唇に落ちた所で、そっとキスをした。
 頬に手をそえると雨に降られた肌が冷たくて、温めてやりたくて更に口付けを深くする。

「ごくでら」

 歯列にそうように丁寧に獄寺の口内を犯し、あふれ出た蜜をそっと舌先で絡め取って、名前を耳元
に落とした。
「ん……」
 怒られるかなと様子を伺えば、獄寺は赤い顔をしてうつむいていて。野球部の自分の腕とは違う、白
く長い腕がのびてきて山本の首にからまった。
「やっぱ、さみぃ」
「……どうしてほしい?」
「……あっためろ」
 了解と頷く代わりに笑ってキスをすれば、獄寺が不器用に舌を迎え入れる。
 ふと見れば獄寺の顔が夕日に照らされて赤くなっていて、雨上がりの空から照らし出され、二人の影
が絡んでは雲陰に消えた。

 

 感じている獄寺は可愛いと思う。


「ぁ、あ……ん」
 かみ殺した声が、辺りに響く。
 普段誰も足を踏み入れないのだろう、廃寺のさらに裏側ともなれば、人の気配まったくなく、草は子供
背丈ほどにも伸びていた。
 その草に隠れるようにして二人潜んで、罰当たりな行為に息を荒げる。
「ほら、もっと声だせよ。獄寺」
 雨に濡れたせいで少しすけたシャツの上から、獄寺の胸の飾りを口でついばむ。
「んっ……」
 濡れたシャツにこすれて、山本の舌をまっていたかのようにそこは立ち上がっていて、軽くかんでやれば
獄寺の口からかすれた声が漏れた。
「……め、ろっ」
 止めて欲しいなんて、思ってないくせに。
 涙を浮かべた目で、かすれた上ずった声で、あがった息で。
 そんなこと言われても、説得力なんてまったくない。
 獄寺のシャツを脱がせて、山本は乱暴に小さな赤い飾りに歯をたてた。
「あ、あぁ……、た、のむから……やまも、と。そこ、ばっか……」
「なに? ここばっかじゃなかったら、どうしてほしいんだ?」
「……ん……い、わせるなっ」
「じゃあ、わからねぇなぁ」
 もう一度強く噛み付けば、山本の頭をかきむしるように抱いて、獄寺が高い声をあげる。
(かわいい、獄寺)
 もっと声を聞きたい。
 もっとその表情をみたい。
 自分だけにしか見せない全てを、さらけだしてほしい。
 シャツのボタンを焦らすように少しずつはずして、顔をだした白い肌にくちづける。
 立ち上がった飾りを歯でかんで、舌で転がせてやれば、獄寺の息が更に荒くなった。そっと表情を確かめる
ように視線をやれば、声を立てないように白くなるまで唇をかみしめた、涙を浮かべた表情があって、ますます
虐めたくなってしまう。
「んっ、ん……んぁ」
 強く閉じた目から、こらえ切れなかった涙が頬を伝う。ソレを舌で絡め取って、まぶたを舌でなぞった。
「こんだけで感じちゃってんの? 淫乱」
 からかうように耳元に言葉をおとして、耳朶を執拗に舐ればまた獄寺の目から涙がこぼれる。
「……も、や、……め」
「やめねぇよ」
 低く耳元から囁かれた言葉に、獄寺が強く山本の頭を引き寄せた。
「や…まもと」
「ほら、もっと声だせって」
 すでに緩められたズボンに手を入れて前を探れば、すでに立ち上がっている獄寺のそれが嬉しそうに震える。
「……ぁあっ!」
「こんだけで、もう獄寺の濡れてぐしょぐしょだな。恥ずかしいやつ」
「い……うな」
 少し強弱をつけて前を擦ってやれば、また一つ高い声があがった。
「んっ……くぅ、あ……」
「ほら、腰浮かせよ獄寺。うしろ、いじって欲しいんだろ?」
「……ざ、けんな」
「強がっても、可愛いだけだって」
 立ち上がった前の鈴口に爪を立てて、耳朶をかんでやれば、自然と獄寺の腰が上がる。それを見逃さずに、山
本は後ろに手を忍ばせた。
「ひっ……」
「ほら、もう獄寺のココ、溶けてどろどろだ」
 そっと後ろのすぼまりに指を一本差し入れれば、獄寺の意思に反してそこは指を飲み込んでいく。
「きもちいい?」
 赤く染まった獄寺の顔の額や目や頬に口付けを落としながら、そっと尋ねれば、小さく首を横に振る。
「嘘ばっかだな」
 差し入れた指を中で曲げて、もう一本その隙間から指を入れる。
 かき混ぜるように揺すると、あられもない声が獄寺の口からもれた。
「はぁ、ああ、あっんっ」
「やらしいのな、獄寺。俺の指、銜えてはなさねぇよ」
「んっ、も……」
「もう一本、いる?」
 獄寺の答えを聞く前に、もう三本目の指をいれると、さすがにきついのか苦しそうに目が細められる。
 そんな表情もすごくいいと思うから、もういい加減自分も末期なんじゃないかと山本は思った。
「も……、も、無理」
 息が荒くなって山本を抱く獄寺の力が強くなったところで、指を抜く。
「あ……っ」
「一人だけいくのは、ずるいだろ?」
 目を細めて笑えば、獄寺は強く山本を睨んだが、熱に浮かされた涙ぐんだ目では誘われているとしか思
えない。
 前をくつろげて自分のモノをとりだす。
「ほら、自分でいれてみな」
「な……っ」
 講義の声をあげる唇をふさいで、前をいじる。空いた手で窄まりのまわりを焦らすようにいじれば、観念した
ように自ら腰をうかした。
「目、閉じて、ろ」
「ん」
 そういって獄寺が山本の目を手のひらで覆う。温かいものが自分を包んでいく感覚に、山本も小さく声をもら
した。
「きもちいい? 獄寺」
「ちょ、っと、だ、まれよ……んっ」
 手のひらの隙間から、獄寺の顔が見える。見られていないと油断しているのか、溶けるような表情がそこには
あった。
「んっ、あ……んんっ」
「獄寺のなか、あつい」
「ん……ぁあっ」
 目を覆う手のひらを掴んで降ろし、手の甲にキスを落とす。
「み、るなっ……っあ」
「なんで? 獄寺がいやらしくて、淫乱だから?」
「ん……っ」
「嬉しそうに飲み込んでるココ、みられたくないから?」
 接合部分を指でなぞると、獄寺は首を横に振りながら涙をながす。
(かわいい、獄寺。獄寺、獄寺)
 もっと泣いているところがみたくて、感じてほしくて、腰を強く突き上げる。
「あああっ! も……だ、めっ!」
「いつもより……奥で、感じる?」
「んっあぁっ」
「俺もっ、す、げ……きもち、いい」
 もっと獄寺を感じたくて、奥に行きたくて、中へ中へ突き入れれば、獄寺の腕が強く山本を引き寄せる。
 汗の匂いと、青い匂いがして。
 溶けたオレンジの光が、鈍く辺りを照らして陰を作る。
 その影に隠れるみたいにキスをして、最後に高く上がった獄寺の声を、噛み付くような口付けで世界から奪った。

 

「ごくでらぁ」
 疲れ果てて山本の膝にもたれかかるみたいに寝ている獄寺の髪をなでて、名前を呼ぶ。
「あんだよ、もうぜってぇお前とはしねぇ。変態」
「まあまあ、そういうなって」
「ちくしょー、絶対あとでぶん殴ってやる」
 そういいながらも山本の手を跳ね除けるようなことはしなくて、またダランとだらしない顔をして獄寺に怒られた。
「なあ、ずっとさあ、お前と一緒にいたい」
「……そうか」
「うん。一緒にいたい」
 もう一度繰り返せば、今度は言葉は返ってこなかった。ただちょっとだけ、獄寺がさみしそうな目をした気がする。
「なんか、空、きもちわりぃ」
「ん?」
「あかい」
「ああ」
 雨が攫っていった雲の向こうには、燃えるような夕焼けがあって、獄寺が眩しそうに目を細めた。
「おうまがとき、っていうんだってさ。ばあちゃんがいってた」
「へぇ」
「悪い魔物が通って、人の心をさらっていくんだってさ」
「……へぇ」
「そのまま、俺とお前も攫っていってくれればいいのにな」
「魔物にか?」
「お前と一緒なら、どこでもいい」
 そこがお前と二人だけの世界なら、もっといい。
 本気で言ったのに、獄寺は小さくわらってからかうように「ばぁか」といった。
 獄寺がどこにも行ってしまわないように。ずっと自分だけを見てくれる世界へ。
 連れて行ってくれればいいのに。
「たばこ」
「ああ、さっき獄寺上着のポケットにいれてた」
「とれ」
「はいはい」
 脱いでほうっていた上着を引き寄せて、そこから煙草をとって獄寺に渡すと、上を向いたまま器用に火をつけ
る。紫煙が空に向かって伸びるが、茜空に近づく前に、風に吹かれて霧散した。
 それがあまりに儚くて切なかったので、その煙を掴もうと手を伸ばす。
「俺から離れていくのは、お前だろ」
「え?」
呟いた獄寺の言葉は、余りにも小さくて聞き取れなくて。

「なんでもねぇ」
「聞こえなかった」
「なんでもねぇっつってんだろ」
「ごくで……っ」
「魔が差しただけだ、気にすんな」

 そういって獄寺があの笑顔を作ったから、もうそれ以上何もいえなくて。
 問い詰める言葉の代わりに「好きだ」といったら「俺もだ」と返ってきた。
それがあまりにらしくなかったので、無性に泣きたくて苦しくて切なくて。
 
 好きだから苦しいなんていう気持ちをなんと呼ぶのか、そんなことばかり考えていた。

 

 

ということで、コレが月嶋さんとコラボしていただいた幸せな
作品です。
ていうか幸せなのは私なんですけどねっ!!

寺と夕焼けと雨とエロあたりをテーマにかきました。