散文(今までメモで携帯なので仕事の合間に書き散らかした、その名のとおりの散文です)
1.
山本とするキスが嫌いじゃない。
ついばむようなガキくさいキス。
薄く目をあけると、山本の睫毛がすぐそこにある。
思ったより実は長いソレが微かに震えて、山本の目が開く。
思いがけず目が合って、慌てて目蓋を閉じた。
山本が微かに笑う。
抗議の声をあげようと薄く口を開けば、からかうように舌を入れられて、唇の内側をなめられた。
山本の手が俺の頬にふれる。それが気持ち良くて、手に頭を預けるように重みを乗せると「可愛い」
とか言われて、殴りとばしてやりたいのに、体中が痺れてうまく動かない。
不思議だと思う。
気持ちいいから。
唇をあわせて抱き合うと、それだけで満ち足りる自分がいるから。
こんな行為を俺はしらない。
「好きだ」
山本がささやく。
それだけで、腹の下がずんとうずく。
また降ってくる唇と熱と未完成の思い。
それがお前だから気持ちいいなんて。
そんな感情、俺は知らない。
2.
パチリ、パチリ。と、音が響く。
俺の手の爪を、山本が器用に切っていく音だ。
「ん。反対の手かして、獄寺」
「だりぃ」
「まあまあ」
ベッドのうえに寝転んだまま、仕方がないのでまただらりと反対の腕を山本に預ける。
山本はまた嬉しそうに俺の手を取って、爪を切りはじめた。
セックスのとき、爪が背中に食い込んで痛いらしい。山本が行為のことで文句をいうのは初めてで、よくみてみると確かに血がでていた。
そんな自分のつけた傷跡を見るのも居たたまれなくて目をそらすと、「爪を切りたい」と山本が言いだしたわけである。
好きにしろ、というと山本は俺の指を一本ずつとって、綺麗にそろえはじめた。
何が楽しいのかしらないが、鼻歌まじりに爪をきっている。
「獄寺、指ながいよなあ」
「そうか?」
「でも火傷してる」
「おー」
「なめていい?」
「あほか! 変態」
山本はちぇっといって、また爪をきる。
何がちぇっだっつうの。
「おまえも指なげぇだろ」
「あ、見ててくれたんだ」
「た、たまたま目に入っただけだ!」
「いや、でも俺の指はゴツゴツしてるからさ」
「へー。俺はおまえの指すきだけどな」
思わずもらした言葉に沈黙があって。
山本が呆然と俺をみている。そこで自分の失言に気付いた。
「ち……がっ」
真っ赤になってさっきの言葉をごまかそうとすると山本が真剣な顔をして、
「お、俺も! 俺も獄寺の指好き! てか獄寺がすき!」
「あ、あほか! 恥ずかしいこというな!」
「さきにいったの獄寺じゃん!」
「うるせぇ!」
とりあえず手足をばたつかせて暴れると、爪がきれないと冷静に鎮められた。
「獄寺の爪お守りにもっとこうかな」
「気持ちわりぃことすんなっつうの」
じとりと睨めば軽く笑われた。なんか本気でやりそうだから恐いんだよ、こいつは。
それからついでとかいって足の爪もきられて、試しに一回とかいってなしくずしにもう一度抱きあった。
「なんか、痛くないのもさみしいかも」
と山本がわがままをいったので、わざと力をこめて爪をたてた。
お前が好きだという指でつけられる傷なら本望だろう?
3.
「獄寺はさ、俺のどこが好き?」
と、山本がそんなろくでもない質問をしてきた。
学校からの帰り道。夕日に照らされたアホの顔にタバコの煙をふきかける
「全部べつに好きじゃない」
「えー」
「えーじゃねぇっつの」
「そういわずに、ちょっと考えてみろって!」
思ったより、ねばるじゃねぇか。
好きなところがドコか、なんてあるわけねぇし。嫌いな所なら腐るほどあるが。
たとえば、皆だまされてる外面のよさだ。明るく大らかで優しいとか鼻でわらっ
ちまう。
一回悩むとすぐどん底まで入りやがるし、けっこう気が短かったりするし、すぐ
ヤキモチやいて拗ねるし。
それに、変なところで頑固なのもいけない。なんだ
かんだで結局自分の意見はまげないし。
あと変態だ。変態なのがいけない。
日本の中学生はそんなことまでしってるのか?
お前いったいどこでそんな知
識をいれてくるんだ、というようなことも平気でしてくるし。
ガキっぽいし。アホだし。間抜けだし。情けないし。すぐ泣くし。
口を開けば野球の話しかしないし。そんなに野球がすきなら野球と付き合いや
がれ野球馬鹿め。
考えれば考えるほど、いったいコイツのどこがいいのかわからなくなる。
「やっぱり無い。むしろ嫌いだ」
しばらく考えこんだ後、きっぱりともう一回いってやれば、今度こそ山本がこの世
の終わりみたいな顔してうつむいた。
いい気味だ。
「お前みたいに最低でいい所なしの男に付き合えるのなんて、世界中探したって俺ぐら
いだろ」
ザマーミロと思っていったのに、何故か山本はしばらく考え込むように俺をみて、そ
れからいかにも嬉そうに笑った。
「何だよ……」
ちょっと引きながらいえば、
「俺も、世界中で一番獄寺がすきだぜ!」
と返ってきた。
「な、い、いつ俺がそんなこといったんだよ!!」
「えー。さっき言ったじゃん!」
「言ってねぇよ!」
「言ったって」
ほら、こういうところが嫌いなんだ、俺は。
仏頂面で山本から顔をそらせば、また声が聞こえてくる。
「俺はさ、獄寺の全部が好き」
そういう山本の顔がやけに幸せそうだったので、俺はもうため息をつくことしかでき
なくて。
山本の馬鹿みたいな笑顔と台詞がやけに胸がむずがゆくなって、やっぱり山本なんか
嫌いだと思った。