「獄寺、獄寺、獄寺って!」 「うるせぇ、何だ」 「何の本読んでんの?」 「どうせお前にはわからねぇ」 「えー」
せっかく誰もいない部屋で二人きりなんだし、もっといちゃいちゃしようぜ。と。 言いたいけど、言えない。 じゃあ帰れなんていわれたら、大変だからだ。 (獄寺の部屋、小難しい本しかねーんだもんなー) 獄寺隼人は、ときどき真剣な顔をして本を読む。 そんなときはどんなに引っ付いても声をかけても無駄で、山本はいとも適当にあしらわれてしまう。 じゃあ暇だし自分も何か読もうと思っても、獄寺の部屋にある本はほとんどイタリア語で、日本語で あっても意味のわからない漢字がいっぱいあったりして、読む前から眠たくなってしまう。 いったいどうしてそんな小難しい本ばかり読むのかと聞けば、将来きっと十代目のお役に立つから だと帰ってきて、山本はますます面白くない。 (二人のときぐらい、俺だけみたらいーのに) 考えれば考えるほど不満が募ってきて、山本は強行手段にでることにした。 もそもそと獄寺に近寄って隣に座る。獄寺はベッドに背中を預けて座っていて、振り向きもしない。 だが、そんなことで挫けるような山本ではない。こっそり背中に手を回して、シャツの中に手を入れた。 「果てろ」 「ヤダ」 獄寺の牽制をなんとかかわして、空いたもう一方の手をズボンの中に忍ばせる。 「てめっ! いい加減にしろよ!」 どうやら本気で怒ったらしい獄寺は、本の角で山本の頭を思い切り叩いた。 「ってえええ! ひでぇ!」 「ひどいのはどっちだ! 俺はいま本を読んでんだよ! みてわかんねぇか! このボケ! 」 そういう獄寺の耳がちょっと赤くて可愛い、なんて思ってる場合ではなく。 本気で怒鳴られてしまって、山本はあからさまに肩を落として沈んで見せた。そうしたら構って貰えるか もしれないという、打算が無かったかといえば嘘になる。 獄寺は気にしないといった風にまた本に視線を落としたが、やはり隣であからさまに落ち込んでいる山 本がいては集中できないらしい。 (……帰れって、言われるかも) イライラしている獄寺を横目でみて、山本はそろそろ真剣に大人しくしたほうがいいかなとか考えていて、 (俺ってなんか、愛されてないよなー) とか思っていた。 ツナになりたいとか思ったことはないけど(だって自分にだけはツナにも見せない可愛いところを見せてく れたりするし)、こんなときは少しだけツナが羨ましくて嫉妬してしまう。 (も、帰ろっかな) このまま獄寺の傍にいても、へこんでいくばっかりだし。でも、それでもやっぱり獄寺の傍にいたくて、どう するべきかと悩んでいたとき、獄寺の手が伸びてきた。 「え?」 殴られるかも、と思わず身構えた体を無視して獄寺の手は山本の肩を掴む。 そしてそのまま引き寄せられ、山本の頭は片膝をたてて胡坐をかいている獄寺の、ちょうど膝上に乗った。 「え、え?」 自分の置かれている状況が理解できない山本は、真上にある獄寺の顔をひたすら見つめる。が、無視さ れる。 (これは、これは……もしかして) 膝枕というやつだろうか。 いや、でももしかしてイタリア式の死の洗礼かもしれないとか考えてしまう辺り、日頃の扱いがうかがえる。 「もうちょっとで終わるから、そこで寝とけ」 ぶっきらぼうにいう獄寺の声が、少し照れたように震えていて。髪から覗いた耳が少し赤くて。 ああやっぱりこれは膝枕なのだと思って、山本はだらしなく頬を緩めた。 「一生読み終わらなくてもいいかも……」 「調子に乗るな、馬鹿野郎」
そう言う獄寺の顔は、やっぱり赤い。 前言撤回。 (やっぱり俺、愛されてる) でも余計なことをいってこの膝から追い出されては大変なので、山本は貝のように口を閉じる。
そして。
獄寺が最後の一ページをめくったら、耳が呆れるほど「好きだ」といってやろうと決めた。
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