たたかなゆびさき


 

 

  

 


「なー獄寺」
「んー」
「今日ダメ?」
「んー…」
「もう一週間してねぇんだけど」
「んん、ねみ……」


 抱きしめたり。キスしたり。触ったり。色々とイタズラしたり。
 ありとあらゆる手を尽くしたけれど、無駄だった。
「なーごくでらー!」
「んー」
 本当に、本当に(色々と)切羽詰っていた俺は、獄寺の肩を掴んでぶるぶる揺すったけれどまったく起きる気配もない。
 やがて聞こえてくるのは安らかな寝息で。
「獄寺ぁ」
 我ながら情けない声だとは思うけれど、仕方がない。
 だって一週間。一週間もコイツに触ってなかったんだ。もっと言うならば姿も、声さえも聞いていなかった。
 その獄寺が同じベッドの中で寝ているのに何も出来ないなんて、生殺しよりもっと酷いと思う。

 

 
 原因は、獄寺愛用の花火の仕入れで。
 イタリアに帰ってくる、という獄寺を笑顔で見送ったまでは良かった。だって三日で戻ってくるといったから。
 なのに。

 

「こんなに長引くなんて、聞いてねぇよ」
 理由を尋ねても「揉め事があった」としか答えてくれないし。ファミリーだけどマフィアじゃないとか、意味わかんねぇよ獄寺。
 あげくの果てには天候悪くて飛行機が飛ばなかったというのだから、何かの陰謀としか思えない。
「俺、すげー心配したんだぜ? 獄寺」
 何かあったのかもしれない。怪我してないか。病気は。
 ちゃんと戻ってきてくれるのか。
 なんて、不安で不安で仕方がなくって。

 それでもちゃんと俺の前に現れて笑ってくれたときは、涙が出るくらい嬉しかったんだ。
 いわゆる感動の再会ってやつだろ? んでもってその夜にすることなんて決まってると思ってたんだけど。

「時差ぼけって……」
 時差ぼけであんま寝てないというなり布団にはいって寝息をたてる獄寺に、俺はまったく太刀打ちできなかったわけだ。

 獄寺が戻ってきてくれて、嬉しい。
 一緒にいてくれて、嬉しい。
 ほんとは色々出来なくたって、俺はいいんだけど。

「もっと構ってくれても、いいんじゃねぇの?」
 なんて思ってしまうのは、俺の心が狭いのか。獄寺が好きだからなのか。
 きっと両方だろうと思う。
 ほとんど話も出来ずに眠ってしまった獄寺の髪をなでて、俺は諦めたようにため息をついた。

 

 

 

 

 次の日、獄寺は学校を休んだ。
 よほど疲れていたのか、一秒でも寝たいらしい。
 獄寺の部屋に泊まっていた俺はそのまま学校にいって、勉強して、飯食って、部活して。
(ああ、結局俺、まだ獄寺とほとんど喋ってない)
 夕日が沈んでいく頃になって、ふとそんなことが胸をよぎった。
 明日は、学校に来るんだろうか。でも来てもツナにかかりっきりであんま喋れないんだろう。
 獄寺の部屋に泊まりにいくのは、ほとんど休みの前の日だから、まだだいぶある。
(獄寺が、たんない)
 それでもまだ、イタリアにいると思ってるときはよかった。心配なのが強かったから。
 だけど手の届くところにいるのに、この距離は遠すぎる。
(獄寺……)
 部活が終わって、片づけも終わって。
 会いたい気持ちだけがつのって。

 さすがに今日も部屋行ったらうざがられるかな。とか考えて前をむいたら、獄寺がいた。

「……獄寺」
 目の錯覚かと思って何度か頭を振るけれど、光景はかわらない。
 校門の壁にもたれかかるようにして煙草をすっている。
「なんで……今日休んだんじゃ」
「たまたま、今、通りかかったんだよ」
「たまたま?」
「おう」
 獄寺は、時々ひどく嘘が下手だ。
 足元に落ちている煙草の数が、そっと本当のことを教えてくれる
(もしかして迎えにきて、部活おわんの、まっててくれてた?)
 じわり、と。胸の奥があつい。
 溜まらず獄寺の手をとると、ひどく冷たかった。
「バカ……、お前こんなトコで!」
「獄寺、手、冷たい」
「……しらねぇよ」

 なあ獄寺、手がこんな冷たくなるまで待っててくれたんだ?
 煙草の吸殻がこんだけ溜まるぐらい、待っててくれたんだろ?

「手、離せって……!」
「ヤダ」
「ヤダってお前……」
「大丈夫、もうそんな人もいねぇし」
 何より獄寺の手を少しでもあっためてやりたかった。
 それより、少しでも獄寺に触れていたかった。
「今日、獄寺の部屋寄って帰っていい?」
「……しょうがねぇな」
「そんで、イタリアの話し聞かせてくれよ」
「つまんねぇよ」
「つまんなくても、いいから」
 獄寺は困ったように笑って、それから部屋につくまでほとんど会話もなく。
 それでも、さっきまでのような寂しさは少しもなかった。
 きっと、繋がれた手が暖かかったから。
「獄寺」
「何だよ」
「寂しかった」
「そうか」

 そう答える獄寺の耳が赤かったから、獄寺も寂しかったんだと都合よく解釈することにした。


 もっと声を聞かせて。指先から体温を教えて。

 もっと、もっと。
 俺を構って、獄寺。

 

 

さて、いつのまにか続いちゃったもっと構って第四弾です。
拍手で書いてたので、ほんとはもういいかなとおもってたのですが、もっと
読みたいという声をいただいたので張り切ってみました。

ちょっとシリアス風味のようですが、結局いちゃついてるだけなのがミソです。