congratulazione


 

  

 

「おめでとう」
 
 山本が、部屋にくるなりそんなとぼけたことをいった。
 眠たい目をこすりながらドアを開けた俺は、理解をするのも面倒臭かったので、とりあえずそのまま
扉を閉める。

「いやいやいや、ちょっと待てって獄寺」

 その扉の隙間に足を挟ませて、山本はにこやかに笑う。
 なにがそんなにめでたいんだ。お前は。
 
「お前、いま何時だと思ってんだよ……」
「いや五時半なんだけどさっ! どうしても朝錬行く前に言いたくて」

 見れば山本の向こうの空は、朝焼けを迎えたばかりでまだ暗い。
 なにが悲しくてこんな時間に祝ってもらわなければならないのか。

 しかも何がめでたいのか、「おめでとう」といわれている俺がわからないのだからどうしようもない。

「おめでとう獄寺」
「だから、何がめでたいんだよ?」

 誕生日は過ぎたし、新年はまだだし。
 俺はまだ十代目の右腕に正式に決まってないし。

 意味がわからない。
 ワケをいえ。ワケを。

「わかんねぇ?」
「わからねぇ」

 寝癖のついた髪をかきながら、面倒くさいのを隠しもせずに言えば、山本はかぶった帽子をすこし前
に傾けた。
 一瞬見えた気がした真剣な目と一文字に結ばれた唇は、すぐに帽子の中に隠れる。

「……なんだよ」

 その山本がなんだか何かたくらんでいるようで不気味だったので、思わず一歩あとずさる。
 それが、一生の不覚だった。

「獄寺」

 と山本が俺の名前を呼んで、挟んでいた足に力を込めて扉を大きく開いた。油断していた俺はなすす
べもなく、扉に体をもって行かれて。
 
 突然に、キスされた。

 それは触れるだけの一瞬のキスだったけれど、俺を呆然とさせるには十分で。

「な……っ」

 言葉を失った俺に、山本はまたいつも笑顔を作って、

「俺とお前が、初めてキスをする日だから」

 といった。

「おめでとう、だろ?」

 ふざけるな、といってやりたいのに。
 喉が震えて、言葉にならない。

「じゃあ俺、朝錬いくから」

 そういって小走りに去っていくお前の胸倉をつかんで殴ってやりたいのに。
 足が震えて、動けない。

「あ、それと。獄寺いま顔赤いからさ、外でかけるなら顔洗えよな」

 そんな可愛い顔誰にも見せんなよ、とか言うので。
 俺は全身全霊の力を込めて「果てろ」といった。
 小さすぎて、山本の耳には届かなかったかもしれないけれど。

 なんだ。なんなんだ、ちくしょうっ。

「なにがっ、おめでとうだっ」

 余裕ぶった態度が、またむかつく。
 今日学校にいったら、絶対に一発殴ってやらないと気がすまない。
 そしたら絶対に「俺がお前を始めて本気で殴った日だからおめでとう」といってやろうと思う。

 そして。それから。そのあとにだったら。

 


 お前の唇が俺に触れたとき、かすかに冷たく震えていたわけを、聞いてやってもいいかもしれない。
 
 

 

 

 

ある尊敬する山獄の大先輩にささげた作品であります!(勝手に先輩扱いとかなれなれしくてすみませんっ)
ちょっと名前をだすのも恐れ多いのですが(許可とってないので)、いきなり何の前触れもなくこんな作品をお
くりつけるほうがよっぽど恐れ多いと思います!!!
サイトアップするつもりのない作品だったのですが…、まあいっかとアップしてみました(日々思いつきデス)。
題名は読めませんが、「おめでとう!」という意味らしいですよ。イタリア語で(適当ですみませんっ)。

えへへ、○○様!アイシテイマス!!!