と睡眠についての考察


 

 


 
 枕がかわると寝られないとは、よく言ったもんだと思う。
 坊ちゃん育ちといわれればそれまでだが、俺はまさにその通りだ。


 イタリアで家出したときも、確かそうだった。
 枕が違ってうまく眠れなくて、嫌な夢をみたりとか、しょっちゅうで。
 それでも一週間もすれば慣れたし。知らない間にそんな悩みも解消されていたと思う。


「二ヶ月……だよな」


 知らず、呟く。


 そう、もう日本にきて二ヶ月だ。
 やはり日本とイタリアでは違うものが多すぎるのか、もう二ヶ月まともにねていない。


 今日だって十代目がいるからと無理して学校にきたものの、体育とかやってられるわけがなくて、
さぼって保健室に来たわけで。

 保険医もいなかったので、勝手にベッドにあがらせてもらったが、やはり枕があわないのかまった
くねつけない。


 寝れなさすぎて死んじゃうとかあるんだろうか?
 そうすると十代目を守れねぇじゃねぇか。冗談じゃねぇぞ、おい。


 とかなんとか。

 白い天井を睨みつけながらひたすら眠れない自分と戦っていて。
 眠たいのに寝れないとか、ほんと最悪だ。


 とりあえず目をつぶってみるけれど、効果はない。
 
「だりぃ」

 何だか自分がいたたまれなくて、思わず声を漏らす。
 煙草でも吸おうとか思うけど、それすらだるくて体が上手くうごかない。

 窓から真昼の太陽が差し込む。心地よいというには強すぎる日差しだが、もちろんカーテンをしめる
のもだるくて。

 いい加減イライラしはじめた所で、保健室のドアがガラリと開く音がした。

 誰だよ、サボりか? いま授業中だぞオラ。

 サボりの学生だったら追い返してやろうと、自分のことはとりあえず棚にあげて、ベッドのまわりをぐる
りと囲んでいるカーテンの向こう側をにらみつける。
 
 侵入者は大きな足音をたて、あろうことか俺のベッドのほうに歩いてきた。
 白の向こうに、見覚えのあるシルエットが映る。それが誰かと照合する前に、影が迷うことなくカーテン
を開けた。

「おう獄寺、大丈夫か?」

 やっぱりお前かよ。
 というのも何だかもうめんどくさくて、精一杯呆れた顔をつくって山本を睨んだ。

「てめー山本。なにしてやがる」

 いま授業中だろうが、お前のお得意な体育だろうが、さっさといけよ馬鹿野郎。

 言葉にするのがしんどいぶん、その思いのたけを視線にこめて投げつける。が、当然この男はそんなこと
気にもとめず、俺に近寄ってきた。

「いや、獄寺の顔色悪かったから、大丈夫かとおもって」
「大丈夫にきまってんだろーが。サボりだ、サボり」

 まさか『枕がかわって眠れなくて睡眠不足』だなんて山本に言えるわけもないのでそう言えば、山本が手の
ひらを俺の額に乗せてくる。

「でも顔色わるかったって。しんどいんだろ?」
「……別に」
「熱はないよな。腹はいたくないか? 頭は? おれシップなら持ってるんだけど」

 腹痛や頭痛にシップ貼ってどうすんだよ。
 ほんとコイツは馬鹿だよなーとか思ったら、山本相手に意地を貼るのも馬鹿らしい気がしてくるから、不思議だ。

「別に病気じゃねぇ、ただの寝不足だ」
「なんで? 寝てねぇの?」
「寝れねぇんだよ、枕がかわると。お前ほど図太くねぇからな、俺は」

 俺がそういうと、山本は少しぽかんとした顔をして、

「あ、でも俺もそれあるぜ」

 といった。

「枕かわったり環境かわったりすると、体が緊張して寝付けないんだよ。獄寺きっとまだ、日本になれてないんだな」

 山本が小さく笑う。

 馬鹿にしたら、殴ってやろうと思った。呆れられたら、怒鳴ってやろうと思った。
 だけど、こんな風に温かく肯定させたら、どうすればいいのかわからない。

「そうだ、獄寺! こうしようぜ!」
「……なんだよ!」
「モノは試しでさ、俺の腕枕試してみろよ!」
「はぁ?」

 と言った時の俺はこれ以上なく嫌な顔をしていたはずなのだが、山本はこれぞ良案とばかりに許可もなく勝手
に人のベッドに上がりこんできた。

「ば、おま、何しやがる! でてけよ、このヤロっ!」
「なんでだよ、別にいいじゃん! それにこれで寝れたらラッキーだろ?」

 何がどうラッキーなんだよ、と突っ込みたかったが、ベッドの中で暴れている間にいつの間にか山本の腕が俺
の首の下に置かれている。

「てめーっ」
「まあまあ! じゃ、俺も寝るし!」

 開いた口が塞がらないというのは、この事だろうと思う。
 なんだてめぇ結局さぼりに来たのかよ、とか言ってやりたかったけど。どう考えてもこいつが好き好んで体育を
サボるとは思えなかったので、やめた。

「ほら、人がそばにいると寝れるかもしれねぇじゃん?」

 あほか。
 俺はマフィアだぞ、人がそばにいて寝れるわけがねぇだろうが。

 と。いってやろうと思った先から、不思議なことに睡魔が襲ってきて何もいえない。

 

 畜生。
 何なんだよ、お前は。

「子守唄、歌ってやろうか?」
「いらねぇ」

 はは、という山本の笑い声が聞こえたとおもったら、もう寝息が聞こえてきて。
 それに誘われるように、俺のもとにも久しぶりに感じる心地よい眠気がやってくる。


 本当に、これは一体どういうことなのか。
 いままでどうしたって眠れなかったというのに、こんな男一人のせいで悩みが解消されてしまうなんて。


 山本のやたらと高い体温が、少し冷たい俺の体を少しずつ温めていっているようで。
 居心地がいいなんて、認められるわけがないけど。


 わかってんのかよ、山本。
 枕がかわると眠れないって、俺がお前の腕枕以外で寝れなくなったらどう責任をとるつもりなんだ。 コノヤロー。

 
 呑気な寝顔にまだ文句は言い足りなかったけれど、折角久しぶりにおとずれたこの睡魔を手放すももったいなくて。

 

「起きたら、覚えてろよ。畜生」

 

 と一言いいすてて、山本の腕に顔をうずめ、久しぶりの睡眠を貪ることにした。

 


 昔見た夢のかわりに、何かいかがわしい夢を見た気もするが、ソレはとりあえず気のせいということにしておこうと思う。
  

 

 

 

ああもう、山本の腕枕以外で眠れなくなってしまえばいいよ。隼人は!!
ということで、大変大変大変お待たせしました!!
立波さまにささげますキリリク「保健室でイチャイチャする山獄」でしたが、
保健室あんま関係ないですよね…っ!
ほんっとおぉおに申し訳ないです!!!これだけお待たせしてこんなんで、
ほんとにすみません…っ!!!

いかにも出来てるような二人ですが、まだ付き合ってないみたいです。
付き合い始めるまであと一ヶ月チョイぐらいの、カウントダウン期間。