おまえなんかきらいだ、といったら「おれはすきだよ」と返ってきた。 それからアイツはすごく幸せそうな顔で、その日に焼けた十四才の手のひらを俺の頬に添えた。 「好き、お前が、好き。大好き」 お前のその、声が嫌いだ。 いつかその声で俺に囁く言葉が、誰かのものになってしまうかもしれないから。 「獄寺、顔、あつい」 それから、お前の手のひらも嫌い。 いつかその温かくて冷たい温度が、誰かの頬を包むのかもしれないから。 そうだ、それとその目も止めて欲しい。 なあ、いつかその少しうるんだような必死な目で、俺以外のだれかを見つめたりするのか? 「獄寺、獄寺、ごくでら」 でも、俺の名前を呼ぶときのお前は、それほど嫌いじゃないかもしれない。 だってその時のお前だけは、今も未来も俺のものだと思えるから。 「嫌いだ、お前なんか、嫌いなんだ、俺は」 だってお前は、何にも知らない。俺のことも、俺たちのこれからのことも。 いつかきっと、離れる日がきてしまうのに。 だから俺は、お前のことをこんなに好きにさせた、お前が許せない。 いつか俺から離れて、お前を俺から奪う、お前が許せない。 「嫌いだ」 俺の頬に添えられた手のひらに、爪を立てるように俺の手を重ねる。 すると山本はその手ごと俺を引き寄せて、唇を重ねて、耳もとで小さく「知ってるよ」と囁いた。
「嫌いでいいよ、お前の嫌いは、優しいから」
意味がわかんねぇよ。 お前の手が頬からはなれ、空いた右手で俺の頭を引き寄せて、胸の中にすとんと落とされた。
「ずっと、俺のこと、嫌いでいてくれな」
そういうコイツの声は、少し震えていたようなきがする。 俺たちはまだガキすぎて、なんの約束ももてなくて。 それでもまだ来ない未来なんてものに怯えていて、どうやらそれはお前も一緒なのかもしれないと 思った。 ふと気になって顔をあげると、そこにはいつものような幸せそうな笑顔があって、俺はすこしだけ顔 をしかめて、もう一度「嫌いだ」といった。
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