うらかに、暖かく。


 

 

 

 好奇心だった。山本があんまり大事そうにしてるから、気になっただけで。

 

「何だ、これ」

  野球の試合のあと。山本は時々俺を近くの川沿いの草むらに連れ出し、ぐだーっとだきついて
ガキみたいに甘えてみたりする。
 最初は抵抗してみたが、無駄なのでやめた。
 なにより俺がこいつの試合後の匂いが嫌いじゃないんだから、もうどうしようもない。
 ただこの日は、なんとなく山本の首にかかっている細い紐が気になった。

「ん?」
「この首にかかってるやつ」
「……あー、お守り」

  へー、と頷いてそのお守りを山本の首からはずした。
 そういえば、けっこう前からコイツの首にかかっていたきがする。

「あ、ダメだって! 獄寺!」
「何でだよ」
 
 はなから山本の意見など聞く気などまったくない。
  紐の中心には小さな袋がかけられてあって、山本の汗やドロであちこちが汚れていた。

「きたねー、これがお守りか?」
「だから返せって!」
  俺に抱きついたままその袋をとりあげようとするので、何だかんだで二人草むらに倒れこんで
しまう。
「観念しろよ、山本! そんな見られたら困るもんでも入ってんのか?」
「そ、それは……」

  山本が言い淀む。
  見られたら困るもん、入ってるみてーだな。

「まかさ俺の髪とか爪いれてねーだろーな!」
「わ、だから開けんなって!!」

  もし入ってたらこれからは変態と呼ぼうと決意をかため、俺はそのお守りの袋を開いた。

「……何だこれ」

 しかし、中身は髪じゃなかった。爪でもない。
  中にはいってたのは、小さな消しゴム。
  なんか見覚えがあるような、と思って山本をみると、耳まで真っ赤にして下をむいて、

「それ、獄寺がくれたやつ」
 
 と言った。 

「俺が?」

  コイツに消しゴムなんかやったかと首をかしげると、山本の手がのびて取り返されてしまう。

「獄寺は覚えてないだろうけどな。ずっと前に俺が消しゴム忘れたとき、貸してくれたんだよ」

  そして返すといったらいらないからヤルと言った、らしい。まったく覚えてないけど。

「そんとき俺、獄寺に嫌われてると思ってたから、すげー嬉しくて。ずっとお守りにしてもってたん
だよ」 

 すると不思議と調子がいいんだ。なんて恥ずかしいことをいう山本の顔が本当に赤かったから、
つられて俺の顔も赤くなってしまう。

「馬鹿じゃねーの」

  というと、

「馬鹿だけどさ」

  と返ってきた。
  それをむず痒いけど嬉しいなんて思ってしまう俺はもっと馬鹿だ。

 山本はその『お守り』を首にかけなおして、再びぎゅっと俺を抱きしめる。

「んーでも、今の俺のお守りは、獄寺だからなー」
「ばっ、か! てめそんな恥ずかしーことよく言えるな!」
「だって試合の前で不安なときとか、試合あとで嬉しかったり悲しかったりするとき、こうやって獄寺が
いるとやけに落ち着くっていうか、力がでるっていうか、大丈夫だって思えたりしてさ」

 ようは好きってことなんだろうけど。なんてやっぱり恥ずかしいことをいうので、右手で力一杯山本の
髪をぐしゃぐしゃにかき回してやった。

 
「獄寺」
「あ?」
「だから、これからも一緒にいてくれよな」

 なんてさらに恥ずかしいことを真っ赤な顔をしていうから。

 俺だってお前の汗と太陽の匂いとか、ガキみたいに高い体温がとても温かくて落ち着くんだなんてことは、
間違ってもいえやしないと思った。

 

 

えっと、実はこれは散文の予定だったのですが、思ったより長かったので、
ちゃんと書いてこっちにアップしました。
散文で書いていた「爪」や「髪」をお守りにしたいっていう山本の続き(?)みたい
なもんです。

それにしても、獄が乙女でラブラブすぎてすみません…。