「ツナだと、思えばいいじゃん」 ある日俺はもう、獄寺が好きで好きで好きすぎて、どうしようもなくなってしまっていた。 追い詰められていた俺は、色んなものに目がくらんでいて、なりふり構う余裕もなく。 ひたすらに。ただ、ひたすらに。 獄寺を求めた。 「俺も、好きな奴を想像するから」 獄寺は俺を振り向かない。視線も心も、全てツナのものなのだろう。 ならば俺は、残った容れ物だけでいい。 お前のかけらなら、なんだっていいから。 「セックスしよう」 俺のものになれよ、獄寺。
「…ぁ、あ…んぅ」 かすれた声が耳につく。 強弱をつけて獄寺自身を扱くと、てらてらと光る蜜があふれた。 「な、に……かんがえて、る?」 獄寺とこういう行為をするきっかけとなった日を回想していた俺は、虚を突かれて苦く笑う。 あの日からすこし時間は流れて、獄寺とはもう何回か体を合わせるようになった。 獄寺の熱。指。かすれた声。 欲しかった物はこんなに手に入ったのに、一番ほしい物はどんどんと遠ざかっていく。 「何でもねぇ、集中しろよな」 「……ん」 俺の声を合図に、獄寺は目をつぶる。 俺は自分の制服のネクタイをとって、その相貌を覆った。 「目をつぶって、好きな奴を、想像してればいいからさ」 セックスをするとき、目隠しをするのは暗黙のルールのようになっていて。それは俺にとっても、 一途に獄寺を求める姿を見られずにすみので、好都合だった。 余裕のない俺たちは、なしくずしに行為に入ってしまうので、場所は今日のような屋上とかの、 校内が多い。 雰囲気が流してくれなければ、俺はコイツに指一本ふれることは適わないのだ。 「ほら、舐めろよ」 俺は獄寺の口に指を二本入れる。 「ぁ、……んっ」 「何だ、まだ何もしてねぇのに、勃ててんの?」 獄寺の足のなかに割り込ませた膝で、一番弱いところを強くこすれば、また一つ高い声がもれた。 「ちく、しょ……んぁ」 感じてしまうのが恥ずかしいのか、耳まで赤くしている。 そんな姿見せられて、我慢できる男がいるんだろうか? 俺は獄寺に舐めてもらったその指で後ろをさぐり、ゆっくりと中へしのびこませた。 「ひっ、あ……ん、ぁっ」 声を出すまいと歯を食いしばる。その唇をキスして溶かしてやりたいけれど、その資格はない。 「声だせよ獄寺。そんなんじゃツナを歓ばせられねぇぜ」 キスの代わりに、言葉を耳におとして辱める。息を吹き込むと同時に耳をあまがみして、舌でな めるとかすれた声があがった。 「そう、その調子」 獄寺の体が傷つかないように俺の上着をしいて、その上に寝転ばさせる。一本二本、三本と、指 で十分にならしたソコに、俺は自身をあてがった。 「あ、いいぜ。獄寺」 「あ、あ……ああっ、ひぁ、あ」 もう何度か俺を飲み込んでいるはずのソコは、しかし今だ処女のようになれない。傷つけないよう 細心の注意をしながら、ゆっくり、ゆっくりと腰を進める。 最初にしたときはがっつきすぎて傷つけてしまい、とても後悔したから。 「んぅ、あっ、い、あ……ぁあっ!」 「気持ちいい?」 獄寺は答えない。今頃とじられた瞼の中で、ツナの夢をみているんだろう。 そう考えると納得させたはずの嫉妬が腹の下からふつふつと湧いてきて、それを誤魔化すみたい に強く腰を打ちつけた。 「ひぃ、あああっ」 「名前、呼べよ」 ぐちゅぐちゅ、とか。体をぶつける音とか。 色んな音が混じるのに、獄寺の声はよく耳に届く。 「ツナの、名前。呼べって」 そして俺に身の程を叩き込んでくれ。 「ほら」 催促するために胸のかざりに歯を立てようとしたところで、獄寺に強く頭を叩かれた。 目をふさいでいるはずなのに見事に直撃なのだから、もうさすが獄寺だなと言うしかない。 「う、るせぇ!」 「ど、どうしたんだよ?」 獄寺がおこっている意味がわからなくて、俺は一度中に入っているものを抜こうと腰をひく。 すると獄寺の両腕がのびてきて、押さえられてしまった。 「もう、も、う、限界なんだよっ! 気付けよ馬鹿!」 その声が、獄寺のだとは思えないぐらい大きくてヒステリックな声だったので、俺は驚いてどうしてい いのかわからなかった。 とりあえず獄寺をなだめなければと、おそるおそる、目隠しに手をかける。 繋がっている最中に顔を見るのは、はじめてた。 大きく脈打つ心臓を説得して、目隠しをとる。 そして今度は、心臓が止まってしまうんじゃないかと思った。 「ご、ごくでら?」 泣いていた。ぼろぼろと。 ああごくでら、そんなに泣いたら目もいっしょに落ちるんじゃないか? 獄寺が瞬きをするたびに大粒の涙がながれて、その涙をすくってやりたいのに、指がうごかない。 「ごめん、そんな、嫌だったか?」 やっぱりどうしたって、ツナの代わりにはなれなかったのだろうか。 体だけでもなんてワガママをいったから、これは罰だろうか。獄寺をこんなに泣かせてしまった。 ごめん。ごめん。と、何回だって謝りたいのに喉がつまって言葉がでない。 「ちげぇ、よ! 馬鹿野郎! 好きなんだよ!」 今度は獄寺が、体を引き離してくる。当然俺は、抵抗できない。 「す、き?」 誰が? 誰を? お前が、ツナを、だろう? 「俺は、お前が! 好きなんだよ! 畜生! 嫌いだ! お前なんか!」 どっちだよ。 なんだよ、それ。どういうことだよ。
なあ、それは、今おまえの目からあふれ出てる涙を、俺がすくってやってもいいって、そういうこと なのか?
「俺に目隠し、させて! お前は、誰をっ、想像してるんだよ! 違う奴のこと考えるなよ! 俺を見ろよ! 頼むから……、俺を、見ろよ!」 それを言葉にしてから、獄寺は下を向いてしまう。 「ツナ……は? ツナを、好きなんだろう?」 まだ状況を理解できていない俺がきくと、獄寺は小さく一度首を横にふった。 「十代目は、尊敬してる。でも、こういうんじゃねぇ。お前がそういうから、利用してしまった、だけだ」 体だけでいいと思った。 お前がそう勘違いをしているなら、お前が好きな奴の代わりに抱かれようと思った。 獄寺は少しずつ言葉をくぎって、そういった。 「でも、もう、無理だ。体だけなんて、無理だ、お前が優しくするたびに、お前が好きな相手を殺したくな る……っ!」 だって、体を手に入れたらもっと欲しくなる。 我慢できなくなる。 名前を、呼んで欲しくなる。 ああ何だ獄寺。俺たち、ものすごく遠回りしたみたいだ。 俺はふらふらと吸い寄せられるように、獄寺にキスをした。 呆然としている獄寺に、もう一度。今度は、深く。 獄寺の口内に舌を差し入れ、奥でおびえている獄寺のそれを誘い出す。ゆっくりと、けれど確かに貪る ように。 歯列をなぞる。余すところなく、舐める。 角度を変えて何度も何度も口付けするうちに、二人のあいだから蜜がたれた。 「ん、ぁ……や、まもと」 そう、それだ。 そのかすれた声で、名前を呼んで欲しかった。ずっと。ずっと。 「好きだ」 熱に浮かされたように、俺は囁く。獄寺の体を強く抱きしめて、耳もとから直接、声を送り出す。 獄寺が、俺の声を聞き逃すことがないように。 「好きだ。好きだ。俺は、獄寺、お前だけが好きだ」 何度も何度も言葉を繰り返すと、獄寺が俺の体をおそるおそる抱きしめ返してくる。 「お前が、ツナを好きだと思って、ずっと苦しかった。他に好きな奴がいるって、嘘ついた。ゴメン、好きだ」 伝わるだろうか? 泣きやんで欲しい。 「獄寺、聞こえてるか……ごく……」 「っるっせぇえ! 聞こえてるよ馬鹿野郎! この馬鹿!」 もう一回名前をよんで「好きだ」といってやろうと思ったのに、その前にまた殴られてしまう。 痛いって。 「馬鹿、野郎! まぎらわしいこと、するんじゃねぇ、よ!」 そういって怒鳴っている獄寺の目からは、一度止まった涙がまたぼろぼろと流れていた。 「な、泣くなって……」 「泣いてねぇ!」 「いや、泣いてるって……」 「勝手にでるんだから、仕方ねぇだろ!」 また俺を殴ろうとする手をとって、もう一度つよく抱きしめる。何度も何度も抱きしめたはずの体なのに、どう してこんなに緊張するのか。 「……や、ま、もと」 「ん?」 「………き、だ」 小さくて、消え入るような声で、獄寺が思いを口にする。 俺は獄寺を抱きしめる腕に、強く強く力を込めて。 獄寺にばれないように、静かに涙を落とした。 そして、たぶん。きっと。 たとえ獄寺が泣いたって、俺はもう二度と、コイツを手放せないだろうと思った。
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