く笑って、長く泣く。(前編) 


 

 

 

 俺の獄寺が女の子からラブレターもらっていた。
 偶然その現場を目撃してしまった俺は、当然きがきじゃなくて。

 受け取るな。受け取るな。
 ていうかお願いだから、受け取らないでくれ獄寺。

 あのな、そこの名前もしらない女子。それと、いっぱいいるであろう獄寺を好きな女子生徒諸君。

 そこにいる銀髪の目つきの悪いカワイイ男の子は俺のものだから、勝手に誘惑しないように。ほ
んと、そこんとこお願いします。

 とかなんとか。
 ストーカーさながらの必死さで壁に隠れて二人の様子を見守っていた俺は、いまにも飛び出していっ
て獄寺をさらってしまいたい衝動を押さえて、息を殺す。
 
 放課後の教室。二人を照らす穏やかな夕日。
 なんだよ、このお誂えむきのシチュエーションは。
 獄寺より頭ひとつぶん小さな身長。華奢な肩。柔らかそうな長い髪。
 よくみれば二人はとてもお似合いで。
 俺の入る隙間なんて、まるでないみたいな。
 
 そんな俺には無いものをいっぱい用意して獄寺を好きになるなんて、いくらなんでも卑怯すぎる。

「    」
 
 獄寺の口が、動く。遠くて聞こえなかったけれど。
 それからたまに手をつないでくれたり、キスをするときに背中におずおずと回してくれたりする獄寺の
右手が、まっすぐ伸びて女の子の差し出す手紙を受け取った。

 嫌だ。
 ていうか、何でだよ。獄寺。

 俺は心のどこかで獄寺が手紙を受け取るはずなんかないってたかをくくってて。
 だってそうだろ。
 獄寺は俺が好きだって言ったら頷いたんだぜ?
 なのに、なんでその女の子の気持ち受け取ってんの?

 それってさ、俺と別れるって、そういうことなのか? 獄寺。
 
 それ以上考えるのが怖くて、ただ呆然と二人の様子を眺めていると、女のほうが何度も頭をさげて教室
を早歩きに出て行く。俺がいるのとは反対側の扉からでていったので、目も合わなかったけれど。

 教室の中には一人残った獄寺が手渡された手紙をじっと見ていて、その光景をそれ以上見ていたくなかっ
た俺は、できるだけ明るい笑顔と声をつくって教室の中に足を踏み入れた。

「獄寺っ!」

 俺が名前をよぶと獄寺ははじかれたように顔を上げて、手紙をポケットに隠す。
 それにはあえて気付かない振りをして、言葉を続ける。

「ごめん、待たせた! 帰ろうぜ」
「……おっせぇんだよ」

 明日休みだから今日とまりに行くから絶対一緒に帰ろう部活終わるの待っててお願い。
 と、必死で拝み倒して待っててもらったのに。
 こんなことになるなら先に帰っててもらえばよかったとか。
 そんなこといまさら後悔したところでどうなることでもなく。

 それに、今日でなくても獄寺がそういうつもりならばこれはいつか必ず起こるであろうことで。

 ふとみれば、獄寺の手がまだポケットの中に入っていて。何か言いたげに唇がかすかに震えている。

 その先にあるのが別れの言葉ならば、聞きたくねぇよ。獄寺。

「……なぁ」
「帰ろう」

 何か言いかけた獄寺の言葉にかぶせるように俺が言えば、困ったように笑う。
 そんな顔も可愛くて。俺はこんなにお前が好きなのに。 
 お前はもう、俺のこと好きじゃねぇの?

「ああ」

 獄寺が笑う。それがあまりに不器用で愛しくて。
 これを喪ってしまうのかと思うと、たまらないほど切なかった。

 

 

 

 ということで、少し短いですが前編です。
 ぶっちゃけ後編はエロの予定です。……てへv(笑ってごまかしてる場合じゃない)
 苦手な方はごめんなさい!

 題名は「短く笑って、長く泣く。それが恋の習いだ。」というガイベル
 という人の名言から。