朝日から、
秋も終わりに近づき、風もだいぶ冷たくなった。 昇りかけた太陽。沈み損ねた月。高い波と、荒い波音。 「お待たせ、獄寺」 いい加減寒くて場所を移動しようかとか考えていた時、後ろから声がかかる。 「待った。さみぃ」 言葉をさえぎるように手を伸ばせば、山本が上着のポケットから小さな缶コーヒーを取り出 「お前のは?」 缶を受け取ってからかうようにいえば、山本がいつものように笑う。それから思い出したよう 「朝日、綺麗だな」 そういった山本の息も、やはり白くて。 「さみぃ」 獄寺が呟けば、 「うん」 と山本が答える。 「さっきまで缶コーヒー入れてたから、まだぬくいだろ?」 確かにポケットの中は温かいが、その分の熱が顔にまで上がってきた気がする。 「すき」 オレもだ。とまでは口にしなかったが、山本には十分らしかった。
十六歳の夏に山本がバイクの免許をとった。らしい。 「一番に、獄寺をのせようとおもって」 ぎこちない操作と運転に多少どころではなく不安になったが、そんなことを言われてしまっては乗 わざわざ獄寺のために二つ買ったのだというヘルメットをかぶって後ろに座れば、思ったよりも上 「どこに行くんだ?」 正面から襲ってくる風に負けじと声を張り上げて問えば、山本はさんざん「内緒」だと言い張り、並森 「ここから見る朝日が綺麗なんだって」
今に至る。 確かに、朝日は綺麗だった。 (こいつ、また馬鹿みたいに色々調べたんだろうな。馬鹿だから) 獄寺が喜ぶだろうか。笑うだろうか。嬉しがってくれるだろうか。 それを考えると胸の奥のあたりが締め付けられるみたいに甘く痛んだ。
「だから、これからもずっと一緒にいてくれな」 山本が、笑う。海からは、陽が昇る。 先の見えない未来を、それは何よりも明るく照らした気がして、たまらず獄寺は小さくうなずいた。
バイクと、鍵と、お前と、自分と。 それだけあれば、どこにだっていけると思った。 |
ほのぼの風味……っぽい感じで……。
海と朝日とバイクと山獄。いつか書きたかった組み合わせです。
山本は高校生になったらバイクの免許とか持ってくれたらいいかもしれない。
獄寺は免許なんかなくても運転がうまければいいかもしれない。
山獄17歳晩秋、初冬。