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いなくなって、初めて気付くことがある。 たとえば隣に立ったときの肩のぬくもり。 触れ合ったそこかしこから伝わる熱。 好きだと言ったときの、照れたような笑顔。
なあ獄寺、俺は。 どうやったって、お前がいないとダメみたいなんだ。
天気のいい昼下がり。 『婚約者』の護衛の合間をみつけてサボっていた俺の上に、影がおちた。
「ツナ……」
名前をよぶと、およそボスには似合わない柔らかな笑みを浮かべて、俺の横に腰掛ける。
「調子はどう? 山本」 「最悪だ」
問いに素直に答えると、困ったように笑った。
あれから、もう一週間獄寺にあっていない。 もちろん今までだって任務で会えないときはあったけど。 『会えない』のと『会わない』のとでは、心にかかるストレスが違う。 そりゃあ最初は腹も立ったけど、次第に『会いたい』気持ちばかりが高まって、ほんと自分でも仕方ないなと思う。 その上いま獄寺がいるのがシャマルのところだというのだから、煙草の量が増えるのも仕方ないだろう? 「事情は聞いた。オレせいだよね、ゴメン」 「別に、ツナが悪いわけじゃねぇって」
そう。ツナが悪いわけじゃない。 決して親友に対する慰めでも、ボスに対する遠慮でもなく。そう思ってる。 獄寺がそういうつもりなら、これはいつか必ずおこった事態だろうから。
「ねぇ、山本」
ふと考え込んでいると、ツナが懐から一枚の封筒を取り出した。
「日本に帰っても、いいんだよ?」
黙ってそれを受け取れば、ツナが優しく言葉を落とす。 中身を見れば、日本行きのチケットが入っていて。
「ファミリーを抜けるものには、制裁だろ?」 「オレを誰だと思ってんだよ? 任しておいてくれればいい」 確かに。 獄寺と色々あって、色々考えた。 日本に帰ろうかとも、考えなかったわけじゃねぇけど。
「なあ、ツナ。俺、こっち来たとき言ったよな?」
でもそんなこと、実行できるわけなくて。
「何があっても、獄寺を守るって」 「……うん」 「だからさ、別に獄寺が俺を好きじゃなくなっても、関係ないんだ。そんな生半可な覚悟で、海を渡ったわけじゃない」
イタリアに来たとき、まだ獄寺が俺を好きでいてくれる保証なんて、どこにもなかった。 それでも、いいと思ったんだ。お前が俺のそばで生きていてくれるなら。 お前のそばで生きて、お前を守って死んでいけるなら。俺はそれでいいと思った。 それだけのために全てを捨てて来たときの覚悟を、忘れたときなどない。
そりゃあ、今お前が笑っている場所が俺の隣じゃないということを考えると気が狂いそうになるけど。 それでも。 お前を愛してる。
「だから……これはいらねぇ」
ビリ。と、音を立てて封筒ごとチケットを破り、風にまかせた。
「あー。いや、たぶんそうじゃないかって、言ったんだけどね」 「ん?」 「ほら、俺も長い付き合いだし。もういい加減さ、二人の痴話喧嘩にもなれたつもりだったんだけど。獄寺くんがどうしてもっていうから、今回は根が深いのかなって思ってさ」
そんなことじゃないかと思ったんだよ。と、ツナがよくわからないことを言う。
「ツナ?」 「そのチケット、獄寺くんから」 「え?」 「そうだ、ことのついでに、もう一つ頼みがあるんだよね」
先ほどまでとは打って変わってけろりとした顔で、ツナがにっこりと笑った。
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