その後の山本は、わざとらしいほど優しかった。
 諸々の後片付けで右往左往している仲間を尻目に、俺の肩と腰をひきよせて部屋へと急ぐ。

 言葉は無かった。必要なかったのだと思う。
 ただ触れ合うそこかしこから伝わってくる体温が全てでよかった。

 


 
 epilogue 


 
 
 向かった先は、アジトに設けられた山本の部屋。仕事で帰れないときに寝泊りする部屋だが、たぶん
俺たちのすんでいるトコロよりずっと立派だろうとおもう。
 
「獄寺」

 山本は後ろ手で部屋の鍵を閉めて、熱っぽく俺を呼ぶ。

「ん」

 それにキスで応えて、強く、強く山本を抱きしめた。

「獄寺」

 それ以外の言葉など忘れてしまったように、ただ俺の名前を繰り返す山本。そのたびに、俺は溶けてゆく。
 山本は俺を抱きしめて、あろうことかそのまま抱えあげてしまった。

「って、山本!?」
「へへ、一度やってみたかったんだよな」

 お姫様だっこ。と山本ははにかんで見せるが、はにかんでる場合じゃない。
 だいたいウエディングドレスでお姫様だっことか、洒落にならねぇじゃねぇか。
 降ろせと俺が暴れる前に、キスが落ちてくる。文句を言おうと口を開けばその度に、何度も何度
もキスが降る。
 段々それがおかしくなってきて、あまりに幸せで、抵抗する気なんてどこかへ飛んでいってしまった
。

 だって、それは一度は捨てたはずの幸せなのに。

「獄寺」
「なんだよ」
「抱くぞ」

 それに答える前に、また口付けが落ちてくる。
 けれど今度はさっきまでの戯れのようなものではなく、体の奥の本能を呼び覚ますような、深い口付
け。

「ん……んぁ」

 一度も唇が離れることなく、山本はそのままベッドに歩み寄り、その上へ優しく俺を降ろす。
 そのまま流されて、その腕に抱かれてしまいたかったけれど、最後に残った俺の理性が邪魔をした
。

「ま、まて、山本!」
「待たない」
「いや、いいから待てって! 俺着替えてこねぇと!」

 いま着ているドレスは、もちろん俺のものではない。十代目が借りてきてくださったものなのだ。
 まちがっても、行為で汚してしまうわけにはいかない。
 
 なのにこの分からず屋は、なおもその手をドレスの中にしのびこませてくる。

「ちょ、山本! ドレス借りもんだから、汚すと十代目にしめしがつかねぇんだって……んっ!」
「でもな、獄寺」
「な、んだよ!」
「獄寺みたいにでかい女めったにいないし、借りるにもサイズとかねぇだろ。たぶんこれ、獄寺用にオ
ーダーしたんじゃねぇの?」
「……え?」
「たぶんツナのことだから、プレゼントだと思うぜ」
「……でも!」

 言われてみれば確かに。という気もするが、十代目は俺にくださるとは一言も言っていない。

「ああ、もういいから。もしものときは、俺が責任とるから」

 どこで覚えてきたのか、鮮やかな手つきで背中のファスナーを外しながら、俺の肌をたどる。

「だから獄寺は、俺の責任とって」

 どんだけ獄寺に触ってないと思ってんの? なんて耳元で囁くからいけない。
 体に、火がつく。
 だからお前は馬鹿なんだよ、山本。
 触れたくて触れられなくて、気が狂いそうなのがお前だけだったと思うな。

「じゃあ、ついでに俺の責任も取れ」

 そういうと、山本は口角を持ち上げて幸せそうな笑みを浮かべた。

 

 


 その後はもう、流されるまま。
 山本が触れるところが熱い。落とされる言葉の一つ一つが、俺を追い上げていく。

「ふぁ、ん……」
「ほら、もっと足広げて」

 ドレスは、それはもう無残な姿になっていた。裾はギリギリまでめくれあがり、上は脱がされてな
んとか腰だけで引っかかってはいるが、下に引かれている部分は先に一度いかされた精液や先走りで濡れてしまっている。
 ああもう、俺はなんと十代目に言い訳をすればいいんだ。なんて、考える余裕もなくて。
 ただ、山本に溺れる。
 
「今日は、とことん気持ちよくさせてやるから」
「あ……」
「なんてたって、初夜だからな」

 初夜だというなら初夜らしく、もっと初々しくしやがれ! といってやりたいのに、快感に流されて言葉にならない。
 
「……獄寺」
「な、んだよ……んぁ」
「獄寺だけだから」
「……あ?」
「お前だけを、愛してる」

 そういって、俺の薬指に唇を落とす。

「……俺も……」

 お前だけだ。と、熱に浮かされた振りをして言おうと思って、言葉が詰まった。

 お前だけ、なんて。どの口がいまさらいうのか。
 一度は、嘘とは言えどもお前を裏切ったというのに。
 傷つけただろうと思う。悲しませたし、悔しい思いもさせた。
 たとえ全てが嘘だったと言ったとして、信じてくれなんて言えやしない。

「獄寺は」

 言いかけて黙り込んでしまった俺の額にキスをして、山本が笑う。

「嘘が下手だから」

 額の次は、頬。そして唇に、何度も何度もキスをする。

「なのに、獄寺にそんな嘘言わせた自分が情けなくて、八つ当たりした。ゴメン」

 謝るべきは、俺なのに。
 暖かくて、涙がこぼれた。
 声にならない声で「悪かった」と呟くと、子供をあやすみたいに頭をなでられる。
 
「なぁ、獄寺」
「ん?」
「俺たち、一応結婚したんだしさ……」
「……お、おう」
「そろそろ、下の名前で呼んでくれても、いいんじゃないかな、って」

 そういう山本の顔が真っ赤で、らしくなくって、わらけてしまった。

「なに、お前下の名前で呼んで欲しかったのか?」

 鼻をすすりながら、からかうように言い放つ。
 だっていままで、一度だって言ったことなかったくせに。

「いや……、別に何でもいいかとは思ってたんだけどさ」
「おう」
「やっぱ、せっかく結婚したんだし」

 嫌ならいいよ、別に。とか照れ隠ししても可愛くねーよ。馬鹿。
 
「おい」

 俺の肩に顔を埋めてしまった山本の頭を叩く。
 
「もうしねぇのか? ……武」

 一言、耳元で名前を呼んでやれば山本は弾かれたように顔を上げた。
 
「ごくで……っ」

 名前を呼ぼうとした山本の口を押さえて、悪戯に笑う。

「名前で呼べよ、ばーか」

 もう二度と戻ってくるはずのなかったもの。捨てたはずの幸せ。ぬくもり。
 それを全て取り戻して、さらに「もっと」なんて罰が当たりそうだけど。

「……隼人」
「うん」
「隼人」
「何だよ」
「隼人」
「だから何だよ」

 そういって笑ったつもりだったのに、何故だか涙がこぼれた。
   
 幸せだと思った。今このときを。この瞬間を。
 なのに涙がでるのはなぜなのか。幸せなのに切ないなんて、馬鹿げてると思うのに。

「……お前を、帰してやれなくて、ゴメン」

 自然と、言葉が滑り落ちた。
 お前を待っている全てのものへ、謝るから。幾らでも、謝るから。
 だから許して欲しい。たとえ許されなくても、もう後戻りはできないけれど。

「俺こそ、お前を解放してやれなくて、ごめんな」

 好きだとか。愛してるとか。そんな適当な言葉で、全てが許されるような恋ではないけれど。
 それでもこの腕も、ぬくもりも、もう二度と手放せないのならば。


 この命の限りに、お前と生きていこうと思った。

 

 

****


 紫煙が登る。
 シャマルは口に銜えたタバコを床でけして、目の前の扉に背中を向けた。

「何だ、もう帰るの? シャマル」
「あー、なんだかおじさんはお邪魔虫みたいだからな」

 困ったように頭をかくシャマルに、ツナもまた呆れたように笑う。

「ほんとに、いい迷惑だよ。あの二人は、いつまでたっても」
「違いねぇ」

 偽の結婚式の後。二人が山本の部屋に消えたというので様子を見にきたが、とても中に入
れるような状況ではなさそうだ。

「そして、シャマルはいつまでたっても、お人よしだ」
「……はは」

 もし自分のことでもめてるのなら、誤解でも解いてやるかと思って来たなんて。誰にもいえない
と思ったのに、この男にはお見通しらしい。

「んで、お前さんは相変わらず意地がわるいな」
「……何のこと?」
「今さらしらばっくれんなって。全部、お前の計算だったんだろ?」

 最後。花嫁の変わりに獄寺がでることは、ずっと前から決まっていたはずだ。
 そうでなければ、獄寺のサイズのドレスがすぐに出来上がってくるはずがない。

「さあ、どうだろう」

 ボス・ボンゴレは底の見えない笑みを浮かべて、手に持っている花束を扉に立てかけた。

「ま、めでたいんだからいいんじゃない? これから打ち上げするんだけど、シャマルもくるだろ」

 さっさと歩きはじめるツナの後ろをおって、シャマルも歩き始める。それから一度だけ振り返って、
笑みを浮かべた。


「congratulazione」

 とびっきりの馬鹿たちに、最高級の祝福を。
   
 

 

 

 

ということで、すっごく今さらですが「おまけ」です。
なんか蛇足感がぴりぴりしてますが……。

本当は初夜で「今夜からは少し照れるね」的なエッチが書きたかったんですが、無念!

さて、結婚式もおえたし、次はハネムーンですね!(調子乗りすぎ

何よりここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!