「獄寺」

 と名前を呼ぶと「ん」と小さく返事がもどって、抱きしめると肩が小さく震えた。
 
「何か、照れるな」
「……黙れ」
「でも、すげー嬉しい」

 そのまま獄寺の体を押し倒してシャツのボタンに手を掛ける。するとその手を獄寺がそっと押さえた。

「はじめに言っとくけどな」
「なに?」
「俺、胸とかないぞ」
「……俺もないけど」
「わかってんだよ! この馬鹿!」

 そんなの俺だってわかってる。獄寺の言いたいことがわからなくて首を傾げた。けれどすぐ俺の手を押さえる獄寺の指が冷たくなっているのに気付いて、「もしかして」の仮定が頭をよぎる。

「……獄寺、不安?」
「……どうせてめぇは、女のがいいんだろ。ほんとは」
「なんでそんなこというんだよ。俺は、獄寺がいいんだって」
「お前の部屋にあるエロ本とか巨乳ばっかじゃねぇか」

 そら一応健全な中学生だから。エロ本ぐらいもってるし、獄寺と一緒にみたこともある。でもそれは興味があるぐらいのもので、獄寺が気にしているなんて思わなかった。
 
「妬いてんの?」

 あ、やばい。いま絶対嬉しそうな顔してた、俺。
 慌ててキリッとした顔を作ってみるけど、やっぱりきつくにらまれてしまった。けれど手がとんでくることはなく、かわりに開いた口から聞こえてきた声は力ないもので。

「後から、やっぱ胸ないと無理、とか。女じゃねぇと無理とか、言われても、俺はしらねーぞってことだよ」

 ああなんてかわいい生き物なんだろう。大好きだ。
 俺の知らないとこで、そんなこと考えてたのか? 俺が今日の約束を取り付けてから、もしかしてその前から。ずっとそんなことを考えて不安になったりしてたんだろうか。
 俺は獄寺がいいのに。獄寺じゃないと駄目なのに。
 そんなことわかってると思ってた。

「ヤったら違ったとか飽きたとか、そんなの、俺は……っ」

 眉間にシワをよせてまくし立てるようにいう獄寺の口をキスでふさいで、そのまま鼻の頭をくっつけて、強く目を合わせる。

「それ以上いったら、怒るぜ。獄寺」

 それからなだめるように優しく何度か頭をなでてやると、迷いながらも獄寺の腕が俺の背中に回された。

「一年以上さ、付き合ってんだぜ。俺たち」
「……わかってる」
「まだ、俺が信じられない?」

 そっと訊ねると、獄寺は俺の胸に顔を隠して小さく首を振る。

「……わ、からねぇ」
「獄寺……」
「そんなん、やってみねーとわかんねぇだろ」

 もしも。と言葉を続けて、そこで獄寺は黙ってしまった。もしも俺の思っているのと獄寺が違ったら、別れるとでもいいたいんだろうか。
 そんなこと出来るはずがないのに。こんなに好きなのに。
 でも。

「俺も……」

 獄寺を抱き返しながら、言葉を落とす。

「不安だよ。こんなことして獄寺に嫌われたらたまんねーし、立ち直れない。やっぱり無理だから別れるとかなったら、もう生きていける自信ない」

 だって獄寺が好きだから。大切だから。必要だから。
 ずっと一緒にいたいから。
 嫌われるぐらいならしない方がいい。
 なあ獄寺。お前も俺と同じ気持ちなのか? 
 それなら、嬉しい。とても。

「でもそれでも、俺、獄寺に触りたいんだ。もっと近い距離があるならそこにいきたい。我慢できねーよ」

 だって獄寺が好きだから。
 小さく小さく呟いた言葉はちゃんと獄寺に届いたようで、顔をあげて真っ赤な顔で「ばーか」といった。

「恥ずかしいやつ」

 そういう獄寺からはさっきのような辛そうな表情は消えていて。
 額に頬に鼻に唇に。キスを落として抱きしめた。


*

「好きだよ」

と。囁いてから一度深呼吸をする。震える手で獄寺のシャツのボタンを外して前をくつろげれば、現れたピンク色の飾りに思わず我を失いそうになる。
 おそるおそる手を伸ばして指で触ると、そこは少し固くなっていた。

「あれ……もう乳首たってる?」
「そ、そ、そんなわけねーだろ! 馬鹿かてめーは!」
「いや、だって……」

 たってるものはたってるし。と喉元まで出かかった言葉は飲み込んで、俺はだまってその飾りを指で挟んだ。小さな乳首には柔らかさはないけれど、指で転がる感触が気持ちいい。少し力を込めてつまめば「んんっ」と少し高い声が聞こえた。

「獄寺、気持ちいい?」
「わ、かんね……」

 みれば獄寺は真っ赤な顔をしていて、目じりには涙も浮かんでいる。可愛い。泣かせてみたい。そう思ってしまう自分が最低だなと思いながらも、欲求には逆らえなくて。
 俺は舌で自分の唇をぬらしてから、そっと獄寺の胸の突起にキスをした。

「なっ……」

 驚いたような声をだす獄寺を無視して、そのまま舌でそこをなめる。ころころと舌で転がすと少し大きくなったので、前歯で小さくかんでやった。

「ん……や、やめっ!」

 やめろと言われてやめられる男が果たしているものか。獄寺の心臓がどくどくと脈うっているのがわかる。乳首のまわりを舌でなぞって、また噛んで。あいた方の突起は指できゅっと強く摘んだり爪を立てたりとしていると、獄寺の手が俺の頭に伸びて押さえつけられてしまった。
やめさせようとしているんだろうけど、思いっきり逆効果。
 そっと上目遣いで獄寺を覗き見ると、さっきよりももっと真っ赤な顔になっていた。

「獄寺、かわいい……」
「う、っせぇよ!」
「気持ちいい?」
「てか、くすぐってぇ」

 何せお互い初めてのことだから、どうすればいいのかよくわからない。アダルトビデオのように上手くいかないことだけは何となくわかっているけど、期待と不安で胸が苦しくなる。
 とにかく、獄寺に気持ちよくなって欲しい。そら俺も気持ちよくなりたいし、目の前の恋人に今にも理性を失いそうになってる状況だけど、やっぱり獄寺が気持ちよくないと意味がない。獄寺が喜んでくれるなら、俺も気持ちいいと思うし。やっぱり「よかった」とか「お前じゃないと駄目」とか言って欲しいと思うのは、世の男たちの夢だと思う。

 俺はすっかり立ち上がった胸から離れて、獄寺のズボンに手を掛けた。チャックをはずして脱がせようとすると、また静止の声がかかる。

「ちょ、ちょっと待て山本!」
「なに?」
「なにっ、て。その、まだ心の準備って奴が……っ」
「大丈夫」

 自分でも何が大丈夫なんだろう。と思いながらも、止めようとする獄寺の手をどけて下着まで一気に下ろした。

「あ、……み、見んなっ!」

 それがよっぽど恥ずかしかったのか、獄寺はシーツを無理矢理たぐりよせて前を隠し横向きになってしまう。

「見せて、獄寺」
「む、無理……っ」
「見たい」
「いやだ!」
「お願い」

 首や背中にキスをしながらねだるけれどやっぱり獄寺は首を横に振るばかり。ああでも確かに恥ずかしいよな、とは思う。例えば俺が獄寺だったら、やっぱり嫌だと思う。やっぱり男同士だし。相手に同じもんついてんのにわざわざ見せて喜ばれるもんじゃないと思うし。それで幻滅されたくないし。
 でも俺は、獄寺だったら全て見たい。全部愛しい。
 
「……わかった」

 静かな声でそういうと、獄寺の肩がぴくりと震えた。

「や……まもと?」

 するのを諦めたと思ったのか、獄寺が不安気な顔で振り向く。俺はそれに優しく笑って、自分もまたシャツとズボンを脱いだ。

「なっ」
「やっぱ俺だけ服着てるとか、フェアじゃねーよな」

 獄寺のことばかり考えていたせいか、もう俺の前はすっかり勃ちあがっている。やっぱり見られるのは照れくさいなと思ったけど、ここは我慢だ。
 
「獄寺」
「馬鹿だろ、お前」
「ん。そうかも」
「どんだけ必死なんだよ」
「……しょうがねぇよ」

 だってお前が好きだから。
 獄寺の肩を掴んで体を俺のほうにきちんと向けてやる。

「獄寺のも、勃ってる」
「て、てめぇのせーだろうが!」
「うん、嬉しい」

 ああよかった。気持ちよかったんだ。


  男の裸だなんて珍しくもなんともないのに、獄寺のだと思うだけで特別なものに見えるから不思議だ。

「やまもと」

 じっと獄寺をみつめていると、不安そうに名前を呼ぶ声が聞こえた。俺はそれにキスで応えて、獄寺の前をそっと手のひらで包む。

「あ……」

 下から上へとすりあげてやるとそこは徐々に硬さを増していく。
 ふと見ると、獄寺は下唇をぎゅっと噛んで快感に耐えていて。つま先で浮いた腰をささえるように開かれた両足には力が込められていて、それがまた扇情的だった。

「あんま、みんじゃねーよっ」

 それは無理だって。だって目の前に獄寺がいるのに。
 ああなんて綺麗なんだろう。獄寺。好きだ。すき。
 そしてフラフラと引き寄せられるように俺は獄寺自身にキスをして、そのままくわえ込んだ。

「なっ……や、め!」

  抗議の声をあげる獄寺を無視して、歯をたてないように気をつけながらなるべく奥まで銜える。フェラなんてやられたこともなければ当然やったこともないので勝手がわからないけど、まーなんとかなるだろう。喉と唇をつかってとにかく全体をかわいがると、しょっぱい味がひろがった。一度口を離してみてみれば、獄寺の先端からはとろとろと透明な液があふれている。俺の唾液と獄寺の先走りで、光っているみたいにみえる。やらしい。

「んっ……く……」

 かみ殺せなかった声が、荒い息にまざって耳に届く。俺はふたたび獄寺を銜えて、今度はそのしょっぱさを味わうように先端の割れ目に舌をたてた。

「はぁ……んっ、や、だ……」

 よほど気持ちよかったのか獄寺の腰がさらに浮き上がる。とにかく鈴口を攻めながら開いた両手で竿を扱けば、獄寺自身がぴくんと震えて俺の口の中で苦いものが放たれた。

「あ……わ、わりぃっ」
「ん、いや」
「てか早くだせよ!」
「ん? 何を?」
「お、お、俺の……言わせるな! 馬鹿!」
「はは、てかもう飲んじゃったぜ」

 また馬鹿ってののしられるかなと思ったのに、口より先に手が飛んできた。ぐーで頭をぽかんと殴られて、両手で頬をつかまれて伸ばされてしまう。

「いてー!」
「出せ! ていうか出せ!」

 真っ赤な顔をして怒る獄寺がかわいい。とか考えてたら伸ばされた口からさっき飲み干せなかった分の獄寺の精液がこぼれて、また殴られた。

「ほんとに出すんじゃねーよ!」

 そんな理不尽な。
 とりあえず「ごめん」と謝って、獄寺をだきしめる。

「なあ、獄寺」
「……なんだよ」
「も、俺、限界」
「は?」
「いれたい」

 何度も何度も頭の中で想像した獄寺のかわいい姿が目の前にあって、もう、無理。
 飢えた獣のような目をしている自覚はある。いますぐにでも獄寺に突っ込んで突き上げてめちゃくちゃにしてしまいたい。という欲望を必死で押さえつけながら、キスをした。


 獄寺は何もいわない。ただ体を離して足を割り開いている間きゅっと目をつぶって耐えている。

「……慣らさないと駄目なんだよな」

 確か。
 俺だってこの一年ほど何もしなかったわけじゃない。来るべきこの日にそなえて色々と勉強していたのだ。
 
「えっと、あ、カバンにジェルは入ったまんまだ」
「はあ?」
「いや、いつこうなってもいいようにジェルとゴムずっとカバンにいれて、そのまんまだ」

 あ、獄寺の視線がいたい。声にはださなねーけどアホという言葉が聞こえるきがする。
 とにかく、取りに行かないと。あーせっかく盛り上がってきたのにもったいないなと思いながらベッドから降りようとすると、獄寺が俺の手をひいた。

「……二段目」
「え?」
「そこの引き出しの二段目」

 そこってどこ? と思いながらも獄寺の視線のさきをみると、ベッドのよこの物置があって。不思議に思いながらもその二段目をあけると、ジェルとゴムが置かれていた。

「獄寺、これ」
「て、てめーが馬鹿だから、どうせこんなことだろうと思って、買っておいたんだよ! いちおう」
「……いつこうなってもいいように?」
「調子にのんじゃねー!」

 のりますとも。こんなことされたら、調子にでもなんでものってしまう。嬉しい。
 一年間「やりたい」って言うにいえなかったのは俺だけじゃなかったりして。なんて考えたらまた目じりが下がって、それを目ざとくみつけた獄寺に蹴られてしまう。