epilogue
目が覚めたら日がくれていた。ああそら昼間からずっと寝てられるはずないしな、とか思って起き上がったら隣には山本の馬鹿面があって。なにを呑気に寝てるんだよこいつはとか思ったら何だか腹が立って、その頬を摘んでひっぱった。ざまーみろ。 ……ざまーみろ。知らない間に俺からキスをされていたことを知って、悔しがるといい。 「Buon compleanno」 寝ているとわかっていても、日本語で伝えるのは照れくさい。だから夢の中でもわからないだろう言葉をあえて選んだ。 時刻はまだ日付変更線をまたがない。祝うには少し早いけれど、お前だってフライングしたんだからおあいこだろう? 誕生日、おめでとう。山本。
「……ごくでら?」 本来となりにあるはずのぬくもりがない。いそいで飛び起きてベッドの上を手のひらでさぐると、シーツはすでに冷たくなっていた。 「……なんで」 もしかして全て夢だったのかもしれない。それはありえる話だった。 と。そこまで落ち込んだところで、 「やっと起きたかアホ」 声はかかった。 「獄寺……」 獄寺は煙草をすいながら寝室の扉にもたれかかっている。さっきまであんなに可愛く俺の下でないていたなんて信じられないぐらい、いつも通りの獄寺だ。 「体、大丈夫か?」 とりつくしまもないような台詞だけど、真っ赤な顔をせいでだいなしだぜ。獄寺。 「……いや?」 勢いよく顔をあげた獄寺と目があって、なんだか気まずくてお互い小さく一度目をそらして。それでもやっぱりか顔がみたくて目線を向けると、また獄寺と目が会った。 変なのな。なんだか今さら付き合い始めた頃にもどったみたいだ。 「獄寺?」 お互い言葉をだせずにいると、突然獄寺が背中をむけて歩き出す。するとやっぱり腰が痛むのかかばいながら歩いているのがわかった。心配でおいかけると、ハンガーにかけられていた上着をとって玄関にむかって進んでいく。 「どこいくんだよっ」 扉の前で立ち止まって、振り返ることなく獄寺がいった。一秒、二秒。三秒はじっくりその意味を考えて、あわてて俺も上着をとりに部屋に戻る。この格好ででたら確実につかまる。 「お前は風邪ひかねーのかよ」 あ、ひどい。ちょっとぐらい否定してくれたっていいのに。 手を、繋ぎたい。そっと隣の獄寺をみて息をのむ。小さく手を伸ばしては引っ込めて、また伸ばして。ためらうごとに、なんだか緊張感がましていく。 「ご、ごくでら!」 なんでここで敬語なんだよ、俺。 そういえば付き合い始めてすぐも、こうやって二人で手をつないで夜歩いたことがあった。獄寺は覚えてるだろうか。あのときは手のひらに汗をかきすぎて、獄寺に嫌がられていないか気になって会話なんて殆どまともにできなかった。 「コンビニで、なに買うんだ?」 あったと思う。というまえに、獄寺の声にさえぎられてしまった。 「ついでに、ケーキでもかってやる」 そういう獄寺の顔の色は、残念ながら夜に隠れて見えなかったけど。たぶんきっと、その色は俺の予想と同じだろうと思う。 しない。とは返ってこなかったから、今日はとりあえずこれで満足しておくことにする。
一年前より、一年後。昨日より、今日。一秒前より、一秒後。ぜったい俺はお前のこと好きになってる。 こうやって手をつなぐのは、いつまでたっても恥ずかしいままなんだろう。 |
こんどこそ、終わり!