ああ今すぐその腰を引き寄せて、口付けて。好きだと囁いて、全てを奪ってしまいたい。
その衝動を抑えるのが一番大変だと、山本は思う。
(……ねたかな)
暗闇の中そっと目をひらいて耳をすませば、規則正しい獄寺の寝息がきこえて、山本はほっと一つ息をもらした。
それから自分の唇にふれて、まだ濡れている感触を確かめる。
(獄寺……)
心の中で名前を呼ぶだけで、胸が苦しくなる。
先ほどまで散々獄寺にいじられたせいで、体が熱いのもごまかせない。
(馬鹿だなぁ、ほんと)
これだけのことをして、山本が本当におきていないと思っているのだから。
そっと布団をかけなおしてやりながら、獄寺の寝顔を覗き込む。幸せそうにねている獄寺に、同じコトをしてやればわかるだろうか。
寝ていられるはずがないと。
最初に獄寺が泊まりにきた時から、気付いていた。そのときにはキスこそされなかったけれど、何度も顔をなでられて。
その頭をひきよせて、唇を奪ってしまえばよかったのだけど、獄寺の手のひらの感触が気持ちよくて、それどころじゃなかった。
ただ少しでもながく、獄寺に触れていてほしい。それだけで。
「好きだ」
けして獄寺を起こさないように。小さな声で、囁く。
届かない声に意味なんてないのに、それでも繰り返さずにはいられない。
好きなのだと、何度も。何度も。
ならば今すぐにでも獄寺を揺り起こして、思いを伝えてしまえと思うけれど、それもできない卑怯な自分がいる。
もし伝えて、獄寺が逃げてしまっては、元も子もないから。
きっと、まだ獄寺は迷っている。そうでなければ、こんな寝ているときを狙って不意打ちを仕掛けてくるはずがない。
だからもう少し、もう少しだけ、我慢をするのだ。
こうやってこっそりキスをするだけでは、獄寺が満足できなくなるまで。唇だけでなく、全てを欲しくなるまで。
それまでは黙って寝たふりだってするし、わざと見せ付けるように女子の告白に呼び出されたりだってする。
(あともう少し……)
それまでは、我慢比べだ。耐えられるかどうか、今は自信がないけれど。
隣で惚れた相手が眠っているのに、ただ黙ってみているなんて、拷問にひとしい。
(獄寺)
顔を獄寺に近づけて、唇が触れる手前で止める。
いつかこの腕に抱いて眠れる日のために。
きっとそれは、そう遠くはない日のことだから。
end.