あしのゆびさき


 「舐めろ」というと、山本は少し考える素振りをみせてから、オレの足元に座り込んだ。
ソファに腰掛けて足をくんでいたオレは、わざとらしくそれを崩して、上に乗せていた方を山本にむかってのばす。

「悪いと思ってんだろ?」

山本は何もいわない。ただ一度だけオレの方に目線をむけて「このヤロウ」という顔をした。

「悪いと思ってんなら舐めろよ、足」

それとも口だけか? と聞いても、やはり山本は何もいわなかった。

そもそも、山本は何も悪くないのだ。
完璧な八つ当りで、それはオレもわかってる。それなのに機嫌をとるように「ごめん」と謝る山本に無性に腹が立った。
謝って全て自分のせいにして甘やかして。全部わかっている理解しているという顔をしている山本に腹が立つ。それに確実にながされていく自分にも。

「それで獄寺は満足なのか?」

だが、さすがの山本も腹が立ったらしい。しばらく黙り込んでいたが、口を開いたかとおもったらそんなことを言った。

「さあな」

満足なはずがない。
ただ山本をこの場から追い出したかっただけだ。
それなのに、山本は小さく笑うとオレの方へと手をのばしてくる。思わず足をひっこめようとすると、長い指が絡み付いた。

「逃がさない」

そういって山本の赤い舌が唇をなめる。
まさか本当に行動にでてくるとは思わなくて、一瞬反応がおくれた。

「いつまでも、許してもらえるとおもってんだ?」

その隙を山本が逃すはずもない。てらてらと唾液で光る口元をにやりと持ち上げた。

そして、キスが足に落ちる。

「て、てめっ! 何しやがる」      
「舐めろっていったのは獄寺だろ?」
「本気で舐めんじゃねぇよ!」
「どうして?」
「き、きたねえだろ!」

山本の舌がオレの足の親指にからんだ。

「きたなくねえよ」

爪の間をそうっと舐めて、口ふくんでくる。こそばゆい感覚に目を細めると、指が足の裏をつたった。

「足の裏も性感帯ってしってた?」

しるかそんなもん! と叫ぶ前に、いま指がたどったところを、今度は舌が伝う。何度も何度も行ったりきたりしながら、また指にかえってきて、一本ずつ口にふくんで舐めていくのだからたまらない。
その指の動きがオレのモノなめているときと酷似していて、下腹に熱が集まっていく。
舐められているのは足元だけだというのに、快感によく似た痺れが、背筋をたどって脳を犯す。

「獄寺、たってる……」

違うと否定したかったけれど、現実はどうしようもない。
こんなはずじゃなかったという言い訳も、もはや手遅れだ。

「……お、まえは、ずるい」
「ん?」
「いつもそうやって何もかも誤魔化して、結局いつもお前のペースだ」

知っているくせに。
オレの気持ちも我が侭も、本心も。それを全部気付かない振りして、いつだって自分のやりたいようにする。

「お前なんか、嫌いだ」

話を聞いているのかいないのか、山本は少しだけ眉間にしわをよせて、それから小さくわらった。
そして再び舌を足の指に絡ませる。

「ん……っ」

その舌は足の裏をつたって、くるぶしへ。それからふくらはぎから、さらにその上まで。
徐々に徐々に、上へとあがってくる。

「は、あ……ち、くしょっ」

触れるか触れないかときわどい位置で触れてくる舌先が、たまらない。
こそばゆいのか、気持ちいいのかわからない。わかるのは、その舌の触れたそこかしこが熱いということだけ。

「誤魔化されてよ、獄寺」

何だか山本の言葉が聞こえた気がしたけれど、もうそれどころではなくて。
さっきまで何にいらだっていたのか、なぜ山本を追い出したかったのか。そんなこともどうでもよくなっていた。

嫌いだ。お前なんか、オレは嫌いだ。大嫌いだ。
けれどいつの間にか唇に落とされていたキスに、そんな思考も流されていく。

「嫌いだ」

最後の抵抗とばかりに呟いた一言もやはり、キスに飲み込まれた。下肢に伸ばされる手を、振り払うこともできずに。

 


気持ちも我が侭も、本心も。
誤魔化したいのは、お前かオレか。
お前はもしかして、その答えを知っているのかもしれないけれど。


今はもう、そんなことはどうでもよかった。

 

 

中途半端でごめんなさい、消化不良。
いずれリベンジしたいです。
memoで少しだけかいてた分を、加筆してアップしました。
つまりMはSにはかてないということですね(何の話!?