だけど、好き。

G

「なー獄寺。俺さ、合コンに誘われたんだけど」

部活あとの泥だらけの体で部屋にやってきて、キスをして、風呂に入らせて。
どうせ明日は土曜日だからこの後は食われるんだろうな、とか思ってたら山本がそんなことを言ってきた。

「は?」
「いや、だから合コン」
「聞こえてるよ馬鹿」

シャンプーの匂いをさせながら、風呂上りの熱い体で山本が抱きついてくる。いつもならその頭をなでながらキスしたりされたり、そのまま致してしまったりするんだけど。今日は違った。
山本が何をいいたいのか分からなくて、その体を突き放す。

「……どうしよう?」

どうしようって、なんだよ。わけがわからない。
俺と山本はいちおう付き合っていて。キスもエッチもするなかだ。
で、合コンってのは女を見つけるところだろ? 
なんでそれを聞くんだろう。男に、俺に飽きたとでもいいたいんだろうか。 
嫌だ、といいたい。行くな、といいたい。
でも引き止めてしまえば、なら別れるとかいわれるのだろうか。 
すぅっと、背筋が冷える。胸に穴が開いたみたいに息が苦しくなって、言葉がでない。
わからないのだ。全然。
お前がどうすれば喜ぶのかがわからない。どうすれば俺を好きでいてくるのかがわからない。
だって初めてなのだ。人に恋をするのも、されるのも。
「いくな」といえばお前は俺を嫌になってしまうんだろうか。
だから、

「いけば?」

というと山本はちょっとだけ目を大きくさせて悲しそうに笑った。その笑顔の意味がわからない。
行って欲しくないと顔に出ていたのかもしれない。下を向いて唇をきゅっとかむと、

「うん、わかった」

そんな山本の返事が返ってきて。
情けないことに胸が痛くて死んでしまうんじゃないだろうかと思った。
 

Y

 

 

 


野球部の仲間に合コンにいかないかと誘われて、考えるまでもなく断った。  
だって俺には獄寺隼人という大好きな恋人がいるから。
獄寺と付き合うようになって一年がたつ。喧嘩とかたくさんしたけど、日に日に好きになるばかりで、余所見をしてる場合じゃないのだ。正直。

「つきあいわりー」

とかいわれたけれどしかたがない。俺は愛に生きる。
適当に謝っていつも通り部活をやって、明日は土曜日なので家にもよらずに獄寺の部屋へとむかう。
 
「おせーよ」

と悪態をつく獄寺を無視してキスをすると「汗くせー」といわれて風呂場に放り込まれた。

あー今日も獄寺がかわいい。大好きだ。こんなにかわいいのに合コンとかありえない。他の女の子なんて見てる暇があったら獄寺を見ていたい。
とかそんなことを考えていて、ふと思いついた。
もし獄寺に「合コンに誘われた」といったら何というだろう。俺は獄寺を大好きだけど、一年間付き合ってきて獄寺も相当俺のこと好きなんじゃないだろうかという自信が、ふつふつと湧いてきていて。
それを試したい。
嫉妬してくれるだろうか。嫌がってくれるだろうか。
いくなといって欲しい。引き止めてほしい。
そんな些細な悪戯心で、

「なー獄寺。俺さ、合コンに誘われたんだけど」

といったら、

「は?」

と返ってきた。
甘えるように獄寺にだきついてキスをねだると、弱く突き放された。

「いや、だから合コン」
「聞こえてるよ馬鹿」

ここまでは予想通りだ。ここで獄寺が「いくな」といえば「もう断ったんだよな」といってハッピーエンド。
獄寺の答えをドキドキしながらまっていると、長いまつげをそっとふせて下をむいてしまった。

「いけば?」

そして返ってきた返事は予想とはまったく違うもので。胸がきゅぅっと痛くなった。
聞かなきゃよかった。自業自得だけど。
もしかして獄寺は合コンの意味を知らないんじゃないかとおもって説明しようと思ったけど、昔一緒にそんな話したよなとおもってやめた。

「うん、わかった」

今さら「断った」ともいえずにそういえば、獄寺からはもう返事がもどってこなくて。
その日は追い返されるかと思ったけれど、しばらくすると獄寺は普通に戻っていつも通りに抱き合って眠った。
 
わけが、わからない。
獄寺は俺が合コンにいっても本当にいいんだろうか。それって俺のことをそんなに好きじゃないということなんだろうか。いや、そんなわけはない。そんなわけはないと思うけど。
いつも通りの獄寺の態度に、俺はただただ不安になるのだった。
 

G


朝。いつ合コンに行くのかと聞いたら「土曜の晩」と返ってきた。土曜の晩ってもう今日の夜じゃねーか。馬鹿。
当然今日も山本は泊まるんだろうなとおもって、晩飯の材料を買い込んでいたのにどうしてくれる。俺は料理できねぇんだよ。腐っちまうだろうが。

部活があるからと出かけていく山本を見送って、ベッドに寝転ぶ。
もし。
もし合コンで出会った女を山本が気に入ったらどうしよう。そうでなくても山本を好きになる女は絶対いるだろうと思う。
山本のくせに生意気だと思うけれど、結構もてるのも知っているから。
今は俺のことを馬鹿みたいに好きだといってるけれど、あいつだって男なんだからそら女の方がいいに決まってる。ああ見えて押しに弱いのも知ってる。山本のタイプにぴったりの女が現れて、強く迫られたら勢いで付き合ってしまうということもあるんじゃないだろうか。
 
山本が、好きだ。でも俺は本当は、山本に好かれるような柔らかい体もかわいい声も長い髪も、何も持ってない。
 
女々しい。こんな自分はすごく嫌だと思うのに。
でも今さら、嫌われてもいいから「いくな」といえばよかったと後悔していた。

Y


「あー馬鹿」

俺。
と、俺は今日もう何度目かもわからない後悔をしていた。
結局朝部活にいったらもう一度合コンに誘われて(なんでも俺がくると相手方にいってしまったらしい)、もはや断る理由もなくなってしまった俺はしぶしぶうなずいて今に至る。

まあ興味がなかったといえば、嘘になる。俺だって健全な中学生男子ですから。どういうものかとは興味があった。
あったけど。

狭いカラオケボックスに男女四人が寄り集まれば、どうしても隣の女の子と肩がふれあう。俺はもうそれだけで獄寺を裏切っているような気がしてたまらなかった。

獄寺に「行けば」といわれてショックのあまりにふらふらと来てしまったけれど、やっぱり意地でもこないほうが良かったんじゃないだろうか。
冷静になって考えてみれば、あの意地っ張りの獄寺が素直に「行くな」なんていえるはずもないんだし。今頃獄寺、一人で部屋にいるんだろうか。ああ見えて獄寺は寂しがりやなのだ。夜に寝てるときだって無意識に俺をさがしてるし。泊まりにいける日ぐらい、一緒にいてやりたいのに。ちゃんと飯食ってるだろうか。あいつ料理できないからまたコンビニとかで済ましちゃうだろうな。夜に俺を捜して起きたりしないだろうか。もし起きたとき俺がいなかったらまた寂しい思いをさせてしまうんじゃないだろうか。イタリアにいたときから一人だといってから、本当は人が恋しいのを知ってる。土曜の夜と日曜の夜。俺が泊まりに来るのだって、迷惑そうな顔してるけど拒まれたことはない。本当は楽しみにしてくれていたんじゃないだろうか。

なにやってんだろう。俺。
獄寺の言葉を真に受けて一人ショックを受けてこんなところに来たりして。自分がかわいそうなことばかりに浸って。獄寺だってショックだったに決まってるのに。
ごめん、ごめん。獄寺。

「山本!?」
「ど、どうしたの?」

突然席から立ち上がった俺に、まわりがびっくりした顔をむける。

「わりぃ、用事思い出した」

といって抜け出した。
会いたい。獄寺に、会いたい。


G

週末の夜は山本が泊まりにくるのが決まりごとのようになっていた。
だからちょっと物足りないだけで。けして寂しいというわけではない。と思う。
もはや飯を食うのも面倒で、ベッドに寝転んだ。
ベッドがきしむ。本来なら二人分の重みで沈むはずだったのにと思うと、それすらも物足りない。いや、寂しいわけではなくて。

いまごろ山本の奴、たのしんでるんだろうな。かわいい女はいただろうか。さすがにそこまで最低な男ではないとおもうけれど、その女とやってしまったりしたらどうしよう。その場合はどっちが遊びなんだろう。

……俺だろうな。当然。
 
枕元で充電してあった携帯を手にとって、開く。履歴を開けば山本武の連続で嫌になった。
 
電話してやったら、どんな顔をするだろう。そら他の女とあそんでる最中に恋人から電話があったらさぞかし水を刺されるだろう。
それぐらいの嫌がらせはありじゃないかと通話ボタンを押そうとして、やめた。

「んなに、気になるのかよ俺……」

女々しいと思う。情けないと思う。
こんなはずじゃなかったのに、山本にはまればはまるほど俺はおかしくなっていくんだ。

嫌になって携帯を閉じようとしたら、着信音がなった。

「……山本?」

何で。いま遊んでるはずなのに。
一瞬だけためらって電話を取れば、聞こえてくるのはいつもの能天気な声。

『もしもし……獄寺?』
「……なんだよ」
『起きてた?』
「だったらどうした」
『寂しかったんじゃないかと思って』

ふざけんな。と思ったのに、

「お前が……」

言葉になったのは言いたいこととは違って。

『うん』
「お前が、わりぃ」
『うん』
「合コンとか、わけわかんねぇ」

山本はしばらく黙ってから『ごめん』といった。
ごめんじゃねぇよ、馬鹿野郎。

『……俺さ、獄寺が好きだよ』
「信じられねぇよ」
『大好き』
「信じられねぇ」
『ほんとだって』

出来れば早く電話を切ってしまいたかった。どうせ会えないなら、お前の声なんて聞きたくない。

『俺、獄寺の気持ちが知りたくて』
「はあ?」
『嫉妬して欲しかったんだ。いくなっていって欲しくて』
「……なっ」
『だからさ、呼んでくれよ。獄寺。お前が呼んでくれるなら、俺はどこにだっていくから』
 

本当に、山本がわからない。
だって初めてなのだ。好きになるのもなられるのも。わかってんのかよ、山本。
駆け引きなんてわからない。お前が喜ぶ顔がみたいんだ。俺だって。
 
「山本」
『ん』
「合コンとか、いくな。帰って……こいよ、馬鹿」

小さな声で俺がいうと、突然電話が切れた。びっくりしてる間もなくドンドンと大きな音をたてて部屋の扉が音を立てる。

「……まさか」

あわてて扉を開けにいくと、そこにはまさかの山本の姿があった。
 
「恥ずかしい奴」

というと、

「うん、ごめんな。獄寺」

山本が困ったように笑った。


山本がわからない。
お前がどうすれば笑うのか。何をすれば嬉しいのか。どうすれば俺を好きでいさせられるのか。

「もう絶対合コンとかいかねーし」
「当たり前だ、馬鹿」
「うん、大好き」

ぎゅっと抱きしめてくる山本の腕が気持ちよくて目を閉じる。それから「ばーか」といって笑うと、山本も俺の見たい笑顔で笑った。

「俺、獄寺が笑ってくれてるのが、一番嬉しい」

あーそうか。
俺がお前を好きなように、お前も俺を好きで。お前の笑顔がみたいように、お前も俺の笑ってる顔がみたいのか。


あいもかわらず山本の考えていることなんてわからないし。時々腹が立ったり不安にさせられたりするけれど。
あーこうやって少しずつ、お前のことをわかっていくのも悪くないかもしれな
いと思った。

 

もともと拍手お礼に載せていたものです。
若さゆえにすれ違う二人がすき。